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社説:過重労働 「名ばかり管理職」を一掃せよ

 入社からわずか9カ月でコンビニエンスストアの店長に昇格すると、本部からの厳しいノルマと休日もないほどの長時間労働が待っていた。それなのに給与は従業員の時よりも減った。「名ばかり管理職」だった。5カ月後、うつ病と診断され、休職した。

 28歳のこの男性は「奴隷のようにこき使われた。精神的に追い込まれ、夜も眠れなくなった」と憤る。

 過重労働や仕事のストレスで、うつ病などの精神疾患や脳・心臓疾患になる人たちが急増している。厚生労働省によると、07年度に精神疾患で労災認定を受けた人は268人、このうち自殺は未遂も含めて81人といずれも過去最多。ともに05年度の2倍で、異常な伸びである。脳・心臓疾患も過去最多の392人が労災認定され、このうち142人が過労死している。

 企業も国も待ったなしで過重労働対策に本腰を入れなければならない。パートなど非正規の社員が増えている分、正社員が長時間労働を余儀なくされている。労働時間は「1日8時間、週40時間以内」という労働基準法の大原則に各企業は立ち返り、社員に残業をできるだけさせない時間管理を徹底する必要がある。

 職場に成果主義が導入され、競争の激化で人間関係に疲れ切る人も増えている。心の病を早期に把握するためのメンタルヘルス対策の充実も急務だ。

 とりわけ、「名ばかり管理職」の問題を何とかしないといけない。過労死・過労自殺の予備軍ともいえる存在だからだ。

 会社から、労働時間規制の対象外である管理監督者として扱われ、どんなに残業をしても残業代は支払われない。管理監督者は経営者と一体的な立場で、出退勤も自由であることなどが要件なのに、20代や30代にまで広がっている。企業が人件費削減のために社員に肩書を与え、ただ働きを強いているようなものだ。

 この問題が社会の関心を呼ぶきっかけになったのが日本マクドナルドに対して店長への残業代支払いを命じた東京地裁判決(今年1月)だ。同社は8月から、管理監督者としていた直営店長約2000人に残業代を払う新報酬制度を導入すると方針転換した。

 ところが、店長の職務給を廃止し、総人件費は変えないという。これではせっかくの残業代も「名ばかり」と批判されてもやむを得ない。企業のイメージダウンを避けるための便法に過ぎないとすれば許されない。働きやすい環境を作ってもらいたい。

 「名ばかり管理職」が横行してきた背景に、国がこの問題を放置してきた点が挙げられる。労働基準法に反する事態なのに、その実態さえ把握せず、是正指導もしてこなかった。過労死・過労自殺の悲劇を減らすため、厚労省は「名ばかり管理職」の一掃に向けた対策を早急に講じるべきだ。

毎日新聞 2008年5月25日 東京朝刊

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