現在位置:asahi.com>社説 社説2008年05月25日(日曜日)付 アフリカ開発会議―食糧と気候という難題アフリカと聞いて、何を思い起こすだろう。雄大な自然と、象やライオンなどの動物たち。貧困や飢餓、紛争、エイズ。さまざまなイメージが浮かぶが、「成長」の2文字を思う人はあまりいないのではないか。 それがここ数年、アフリカは「成長大陸」ともいうべき様相なのだ。02年ごろから経済が拡大に転じ、年率5%を上回る成長ぶりを見せている。 最大の理由は、資源価格の世界的な急騰である。 アフリカには石油をはじめ、ダイヤモンドやプラチナ、金などの天然資源が多く埋蔵されている。冷戦終結で、東西対立のあおりを受けていた紛争がおさまり、新しい開発が始まっていた。そこに資源高騰が重なり、収入が跳ね上がった。 たとえば、長い内戦に苦しんできたアンゴラ。6年前の停戦合意の後、原油やダイヤモンドの採掘が本格化し、07年の国内総生産(GDP)は27%も成長したと推計されている。 同じように、産油国のスーダンは11%、赤道ギニアが9%、ナイジェリア7%といったぐあいだ。アフリカ全体で見ると、域外輸出の6、7割を原油や希少金属などの資源が占めている。 この地下資源を求めて欧米や中国、インドからの投資やビジネスが殺到している。いまや、産油国の首都には高層ビルが立ち並び、富裕層は消費ブームにわいている。 ■温暖化被害の深刻さ 商業や軽工業が育ち始めた国もある。経済のグローバル化が資源高騰を生み、こうした活気をもたらしたのは確かだ。紛争に苦しんできた人々への「平和の配当」だとも言えるだろう。 しかし問題は、アフリカの抱える矛盾や苦悩がこれで消えたわけではないことだ。むしろ、深刻になっている面すらある。 まず、変わらない現実の厳しさを数字で見てみよう。 サハラ砂漠以南のアフリカでは、10人に4人が1日1ドル以下で暮らす。子どもたちの6人に1人は5歳の誕生日が迎えられない。大人の平均寿命は50歳。世界のエイズウイルス感染者のうち、6割以上がこの地域に集中する。地域紛争が続くところもある。 地下資源がもたらす富は小さくないけれど、この悲惨さの壁を突き動かすにはとても足りない。 新しい「魔物」もやってきた。経済のグローバル化が、めぐりめぐってもたらした食糧価格の高騰だ。 食料品の値上がりは、貧しい人々の命を左右しかねない。セネガル、シエラレオネ、南アフリカなどで暴動が起きている。難民向けの救援食糧が底をつき、飢餓の恐れも出てきた。 いや、何と言っても、最も大きな脅威は地球の温暖化だ。 アフリカ(サハラ以南)で排出される二酸化炭素の量を全部足しても、日本の排出量に及ばない。産業活動の規模が違うからなのだが、では温暖化の影響もそれだけ小さくてすむかといえば、逆である。 サハラ砂漠はじわじわと広がり、キリマンジャロの山頂の雪は姿を消していく。住民の3分の1は、干ばつが頻発する地域で暮らす。食糧生産の9割以上が雨水に依存しているから、影響は深刻だ。 先進国であれば、灌漑(かんがい)施設を整備したり、穀物が足りなければ輸入したりといった手だてを講じられる。だが、アフリカの人々はわずかな気候変化でも生活の土台が崩れてしまう。 28日から開かれるアフリカ開発会議(TICAD)に突きつけられているのは、こうした新しい難題なのだ。 グローバル化の波に翻弄(ほんろう)され、温暖化の脅威にさらされるアフリカには、どんな将来図が必要なのか。会議に出席する日本やアフリカ各国の首脳、国連機関代表には、従来型の支援策を乗り越えた発想が求められる。 ■農業へのてこ入れを 日本にとって、今後のアフリカ支援で特に重視したいのは農業の振興だ。 人口の大半は農村部で暮らす。だが、農業の生産性は低く、小麦やコメは消費量に追いつかずに輸入に頼っている。そこに食糧高騰の波が襲っている。農産物の増産が急務だ。 まず、安定した食糧供給の基盤をつくり、そのうえで工業化の段階へ進む。それがアジアの国々がたどってきた発展の図式だ。その経験と知恵をアフリカに合う形で伝えていきたい。 アフリカ向けに今、ネリカ米という新品種が注目されている。アジアとアフリカの品種をかけ合わせた陸稲種で、干ばつに強く、収量も多い。この普及を大きな柱にすべきだ。 アフリカ農業の発展のためには、先進国に有利な農業貿易構造を見直す必要もある。欧米は巨額の補助金付きで安価な小麦などをアフリカに輸出する。生産性の低いアフリカ農業では太刀打ちできず、カカオやコーヒーなど国際価格が不安定な商品作物に頼らざるを得ない構造がある。 これでは自立した農業は発展できない。欧米の輸出補助金を撤廃するなど、より公正な貿易の枠組みを実現させなければならない。 アフリカをめぐっては今後、7月の洞爺湖サミットをはじめ、世界でさまざまな取り組みが検討されていく。TICADの3日間の議論を通じて、その指針になるような方向性を打ち出してもらいたい。 PR情報 |
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