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(三重)桑名産ハマグリ 復活の兆し

稚貝生産や放流の成果 地元漁協、必死の取り組み


ハマグリの稚貝を育てる種苗生産施設

 かつて、全国一の漁獲量を誇った桑名産ハマグリの“復活”を目指して、地元漁協が長年、続けている稚貝の生産や放流などの成果が、ようやく出始めている。しかし、放流後の生存率の低さや相次ぐ密漁への対策など、なお課題は多い。一時は絶滅も懸念された名物を、「何とか次の世代に残したい」と、必死に取り組む現場を取材した。(南条哲治)

一時は絶滅の危機

 「大きく育ったら、また会おうね」。先月、桑名市長島町沖の人工干潟で、漁船に乗った地元の小学生たちが、そう声をかけながら、ハマグリの稚貝約120万個を放流した。漁港に戻った子どもたちに、赤須賀漁協の秋田清音組合長(65)は「ハマグリは桑名の財産。たくさん取れるように、頑張るよ」と話しかけた。

 最盛期の1970年ごろ、年間3000トンあったハマグリの水揚げ量は、木曽岬干拓地の造成などで漁場が消えて激減、95年には0・8トンにまで落ち込んだ。このため、同漁協が中心となって「種苗生産施設」を造って稚貝を育てる一方、人工干潟を造成。昨年は約52トンを水揚げするなど徐々に持ち直している。

 同漁協が6月から育てた稚貝は約170万個で、大きさは平均3ミリ。2ミリ以下の稚貝では放流しても海底の砂に潜れず、潮に流されてしまうという。

 漁協職員で、稚貝の飼育を担当する諸戸敦さん(32)は、「台風などに左右されるため、はっきり分からないが、放流量の半分は失われているのではないか」と厳しい表情で話す。

飼育の難しさ


 稚貝はデリケートで、生産、育成は苦労の連続だ。稚貝のサイズを大きくすれば、放流後の生存率も高くなるが、秋田組合長は「サイズが大きくなるほど、飼育水槽の中の稚貝の数を減らさなければならない」と、打ち明ける。

 水温の変化にも敏感で、15度を切ると餌を取らなくなって死んでしまう。電気で水温調節するが、「成育に適しているのは水温25度。大きく育てるには、冬場も水温を上げなければならず、それでは経費が大幅にかさむ」という。

 ハマグリの種苗生産をしている漁協は全国でも赤須賀漁協だけ。秋田組合長は「生き物が相手だけに、毎日の観察が大事。他人が途中から手を出してもうまく行かず、マニュアル通りにやっても飼育は難しい」と話している。

相次ぐ密漁被害

 こうした中で、天然ものの繁殖も見られるようになった。県科学技術振興センター水産研究部によると、昨年夏、木曽川下流で5ミリ大の天然稚貝が1平方メートル当たり500個見つかった。以前は50個以下だったといい、同センターでは「人工干潟が造られた影響などで、ハマグリの住みかが再生したのかもしれない」と漁協の取り組みを評価している。

 ただ一方で、レジャー客による密漁が増え、新たな問題となっている。苦労の末に放流した稚貝を、潮干狩り感覚で採っていく人が後を絶たず、夏には干潟を掘り返す家族連れらで込み合うほど。中には販売目的の密漁者もいて、損害は小さくない。

 今年10月には、同漁協と桑名市、四日市海上保安部、国土交通省が初めて合同で密漁防止のパトロールに踏み切った。

 センターの水野知巳・主任研究員(39)も「人工放流は大切。その上で、密漁の取り締まりなど資源管理を厳しくする必要がある」と指摘している。

 桑名産ハマグリ
 歴代の徳川将軍にも献上され、名物の「焼きハマグリ」は、十返舎一九の「東海道中膝栗毛」に紹介された。赤須賀漁協では、1976年から稚貝の人工種苗の技術開発に取り組み、82年、餌用プランクトンを安定供給できるようになったことで量産に道を開いた。漁獲量わずか800キロ(95年)と絶滅の危機にひんした年もあったが、放流量を増やした結果、98、99年には漁獲量が一時的に増えた。しかしその後は低調。一昨年、昨年とようやく漁獲量が増え始めた。

2006年12月20日  読売新聞)
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