大相撲夏場所14日目の24日、ブルガリア出身の大関・琴欧洲(25)=佐渡ケ嶽部屋=が欧州勢として初の幕内優勝を決めた。先代佐渡ケ嶽親方(元横綱・琴桜、故人)に見込まれ、初土俵から5年半。故郷から招いた父ステファンさん(52)が見守る中、異国の文化と厳しいけいこに耐え、栄冠をつかみ取った。【和田崇、海保真人】
優勝の瞬間、ステファンさんは左手を突き上げ、愛息の雄姿に全身を震わせた。「本当によくやった」。支度部屋で着物姿の息子と抱き合い、耳元で「おめでとう」と伝えると、琴欧洲の表情がさらに崩れた。
琴欧洲の故郷、ブルガリア中部ジュルニツァ村の実家では、母ツェツァさん(47)と祖母キナさん(72)が、日本語衛星放送の生中継で優勝決定の瞬間を見た。毎日新聞の電話取材にツェツァさんは「母親として大変幸せ。ブルガリア人としても非常に誇りに思う」と喜びを語った。
ツェツァさんは当初、ステファンさんと一緒に訪日する予定だったが、心臓にやや不安があり、今回は大事をとってブルガリアに残った。優勝を決めた一番では、親せきや村の近所の人が大勢、テレビの前に集まり沸き返ったという。
先代が育てた愛弟子の初優勝を見届けた佐渡ケ嶽親方(元関脇・琴ノ若)は、花道を引き揚げる琴欧洲から両手で握手を受け、思わず目頭を押さえた。
琴欧洲が佐渡ケ嶽部屋に入門した当時、兄弟子だった親方は「会話は身ぶり手ぶり。つらかったと思うが、両親に楽をさせたいとの気持ちがにじみ出ていた」と言う。幕下時代、琴欧洲は給金のすべてを故郷に送金していた。
2メートルを超える長身を生かして順調に出世したが、06年初場所の大関昇進からは長い足踏みが続いた。大一番での精神的弱さも目立った。変化をもたらしたのは、昨年8月の先代の急死だった。日本で父親代わりだった師匠を失って戸惑う琴欧洲に、親方は繰り返し言った。「このままの相撲じゃだめだ」。2度のカド番も経験し、苦境を糧にした。
琴欧洲は今でも朝げいこが終わると、先代の仏前に手を合わせる。親方の目には「日本人の心をよく理解している。ここ(日本)に骨をうずめたい、と思っているんじゃないかな」と映っている。
毎日新聞 2008年5月24日 21時22分(最終更新 5月24日 21時43分)