父親も育児にもっと積極的にかかわろうという動きが、30代以下の若い世代で広がっている。少子化問題を男性の働き方からみてきた第1部の番外編として、子育てをする父親への支援策や、「子育てパパ」の仲間作りについて紹介する。
◆男性取り込むしかけ
4月の土曜の午後。赤ちゃんや小さい子の相手をする母親たちに交じって、子どもと遊んだり、新聞を読んだりする父親の姿がちらほら見えた。
横浜市港北区の住宅街にある地域子育て支援拠点「どろっぷ」。同市が「親子の居場所」として各区に設置する施設の一つで、主に0~3歳の子どもとその保護者が無料で利用できる。民設民営方式で、地域の子育て支援に実績があるNPO法人「びーのびーの」が運営にあたる。
こうした子育て支援施設や広場の利用は母親が中心だが、どろっぷは「男性が子育てにかかわることが大切」(奥山千鶴子・びーのびーの代表)と、父親の利用を意識。06年の開設当初から、男性用トイレや、新聞を読んだり、コーヒーが飲めるコーナーを設けたりするといったしかけを作ってきた。
父親向けの育児講座を開いたり、各種イベントにも父親を巻き込むようにした結果、平日の日中に育児休業中のパパが通って来るようにもなった。
「男1人で公園にいても気が引ける。ここはパパでも入りやすいようにできていて助かる」。こう話すのは、2歳の長男を連れ、開設当初から利用しているという会社員の須山草平さん(33)だ。
須山さんは自分が父親になった時、「家庭は妻まかせで仕事一筋だった自分の父の世代は、ロールモデル(手本)にはならない」と感じた。でも、目指すべき父親像は見付けられなかった。
「ここには子育てに熱心な父親が集まり話題も合うし、モデルも見つけやすい。ここがなければ、子育てに首を突っ込むべきかどうか、自信が持てなかった」と感謝する。
◆きっかけはブログ
「近所で子育てのこと話せる人います?」
「いや。ママ友っていうのはあるけど、男だとないですね」
東京・丸の内のオフィス街にある居酒屋。仕事を終えた孝さん(30)=東京都、仮名▽良さん(31)=千葉県、同▽功さん(35)=横浜市、同=の男性3人が、ビールを片手に子育ての話題で盛り上がる。
3人はそれぞれの育児ブログを通じ知り合った。第1子が同年齢で誕生日も近く、IT関連の仕事に就いているなど共通点もあり、一緒に飲んだり、家族ぐるみで付き合うようになった。
初めての妊娠、出産、子育てには、父になる男性の側にも戸惑いや不安がある。だが、職場に相談できる相手はいなかった。この3年、互いに悩みを聞いたり、励ましあってきた3人は「今では戦友のようだ」と笑う。
家族や自分のために仕事は必要だが、父として子どもとのかかわりを大切にしたい。限られた時間の中で、どうバランスを取るか。今、それが3人共通の関心事だ。
「母親の大変さも分かる。しかし、仕事との両立が難しい、父親業にももっと光があたってほしい」。孝さんはそう訴えた。
◆「パパ論」発信
父親のあり方に一石を投じようとしているのは、「せたがやパパの会」代表の小嶋一弘さん(33)だ。世田谷区子ども基金の助成金を利用し、フリーペーパー「パパスタイル」を発行。子どもとの休日の楽しみ方や、家族との時間を大切にしている人の「パパ論」などを紹介している。
小嶋さんは自治体主催の父親向け育児講座に参加し、その内容が父親のニーズに合っていないと感じた。一カ所に人を集めて何かをするより、自由に選択できる情報を流す方が歓迎されると考えた。
「ワークライフバランスの大切さはみんな分かっている。大事なのは進め方。『早く家に帰れ』というだけでなく、父親業が楽しくなる具体的で身近なアイデアを伝えたい」。小嶋さんは意気込む。
少子化問題に詳しく自らも育休経験のある富士通総研の渥美由喜主任研究員(39)は「子育ての場となる地域社会は女性中心の社会。男が育児しようとすると、地域に居場所がなく子どもと過ごすのに困ることが多い。自治体などが定年後男性の居場所作りを進めているが、男性の育児を推進するには、同様に現役世代の居場所やネットワーク作りが必要だ」と指摘する。【山崎友記子】
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■父親向け支援を行う団体の一例
▽NPO法人ファザーリング・ジャパン
http://www.fathering.jp/
企業などでのセミナーや、検定試験の実施
▽NPO法人新座子育てネットワーク
http://ccn.niiza‐ksdt.com
地域や企業で実施する男性向け研修プログラムを提供。埼玉県新座市に事務局
▽育時連(男も女も育児時間を!連絡会)
http://www.eqg.org
子育てと仕事の両立を目指し、例会開催やニュースの発行。首都圏中心に全国に会員
▽パパスタイルネット
http://www.papa‐style.net
せたがやパパの会が運営するサイト
▽NPO法人びーのびーの
http://www.bi‐no.org
横浜市港北区で地域密着の子育て支援を展開
毎日新聞 2008年5月24日 東京朝刊