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【社会】

救助隊員襲うストレス 心の痛み言葉に出して

2008年5月24日 夕刊

中国地震での支援活動について話す救急診療科医長の中島康さん=東京都渋谷区の都立広尾病院で

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 中国・四川大地震の被災地に派遣された日本の国際緊急援助隊救助チーム。生存者がおらず、がれきの下に遺体が積み重なる壮絶な現場で、隊員の精神サポートの中心となったのが、四人の医療班だった。その一人、東京都立広尾病院緊急診療科医長の中島康さん(37)に、“助ける側”への心のケアの必要性について聞いた。 (浅田晃弘)

 総勢約六十人の救助チームは十六日に活動を開始、二十一日に帰国した。中国側の救助要請が遅れた上に、現地での移動に大幅に時間を費やし、生存者は救出できなかった。

 がれきの下からは母娘、倒壊した中学校の校舎からは生徒たちの遺体が、続々と収容された。必ず生きている人がいると信じて活動していた隊員には、酷な現実だった。

 中島さんが心掛けたのは、遺体を見るなどして受けた精神的なショックを、隊員たちが引きずらないようにすること。作業の合間を見ては「つらいね」と声をかけ、隊員らの話に耳を傾けた。

 阪神大震災や米中枢同時テロでは、悲惨な「死」に直面した救助隊員の心的外傷後ストレス障害(PTSD)が指摘された。悪夢を見る、死者の顔が脳裏によみがえるなどの症状。「無念やもどかしさを感じたら、その場で言葉にし解消することが大事。しないとストレスをためこみ、PTSDにつながる」

 ショックを受けると気分がすぐれず思考力が低下したり、動悸(どうき)が起きたりする。そうしたストレスによる反応も「当然のこと」と説明し、焦らずに心を落ち着かせるように努めた。活動最終日の隊員の健康診断では、ストレス障害のような症状はなかったという。

 今回は、警視庁や東京消防庁などの精鋭部隊。「心の問題についてもよく教育され、対処方法を知っている人たち」だったが、警察や消防の現場には、まだまだ心の痛みについて「気合」で何とかさせようとする気風が残ると指摘される。

 中島さんは「能力の高い人が、心の問題で働けなくなるのは大きな損失。精神論ではなく冷静なケアの必要について理解を広めたい。四川の活動は、そのための貴重な経験になった」と振り返った。

 

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