金慶珠(キム・ギョンジュ)。彼女は、CS放送・ニュース専門チャンネル「朝日ニュースター」でキャスターを務めている。日本のメディアで活躍する、韓国人初のキャスターだ。13日午後3時、彼女の母校である梨花女子大学(ソウル)の「女性とグローバルリーダーシップ講演会」で、“郷に入っては郷に従うな”と題された講演会が行われた。同大学ではこの手の講演会が頻繁に行われるのだが、日本で初の韓国人アナウンサーということで興味がわき、(衛星ではあるが)講演会に参加してみた。
ちなみに、韓国では朝日ニュースターはまったく無名である。講演会の始まる前、後ろの席に座っていた学生は、「あ、ニュースとスターね。日本人って英語が変だから、ニュースにターを付けて発音するのかと思った」と言っていた。日本人沈没。
本題に戻るとして、「郷に入っては郷に従うな」というのはどういうことだろう。金氏は韓国や日本の「限界」というものに常に挑戦してきたらしい。そこで得た教訓が「郷に入っては郷に従え」ならぬ「従うな」らしい。この逆説的な方法はどうも金氏の現在の地位を得るまでの、彼女の経験から得た教訓のようだ。
彼女は梨花女子大卒業後、幸せな結婚で人生幕を閉じるつもりだった。しかし、4年生のときに付き合っていた彼氏にふられ、父と死別し結婚時期を逃したことから金氏の挑戦は始まった。
■自身の価値を高めるまで結婚はしない
父の仕事で3年間日本に滞在したこともあって、日本語が堪能であった彼女は、とりあえず秘書として就職した。しかし、そこでは「女性」というのが理由で将来が見えなかった。
悩んだ末に専門職の道を選ぶことにした金氏は、ソウル外国語大学の通訳大学院に進学することにした。そこで、彼女は第1の限界にぶつかる。「能力の限界」である。大学院卒業後には同時通訳士、大学の講師、テレビ司会者として、月収は600万ウォン(約60万円)を超えた。金氏は自身の能力を最大限に発揮していた。しかし、そこで金氏はこれからの自身の発展を見失った。
「私自身の限界を突破しようと思ったら、私が私の能力を開発しなくては」と思い立ち、東京大学大学院への留学を決心した。周囲は今の生活を捨てて、貧乏な留学生生活を行うことについて反対をした。しかし、自身の適応力を信じて金氏は進んだ。
パンの耳や、果物屋のジュース用果物を食べながら生活した。しかし、金氏は奨学金ももらいながら、日本で勉強した。そこで彼女は第2の限界にぶつかる。それは「素質の限界」である。学問の世界で埋もれながら3カ月間、彼女は人間観察を行った。人に踏まれるのか人間、ともに生きる人間、変化を起こせる人間、どのグループに入るのだろう。
■なにか、やれるだけの器を自分は持っている
これが、金氏の出した結論だった。大学院卒業後、すぐに教授になった。金氏は教授の仕事を(1)教育、(2)研究、(3)雑務、(4)社会啓発活動と定義した。これらは自分よりも得意な人がいる。自分は日本社会で韓国を正しく教え、日韓交流に貢献しようという決意をした。
日本では「嫌韓」という言葉が出ている。しかし、それを変えようと社会的に積極的に活動している韓国人はいない。そのようなもどかしさを感じる中、金氏は北朝鮮問題をテーマにしたとある番組に、特別ゲストとして招待される。運命を感じた。知名度を上げれば自分の発言に耳を傾けてくれる人も多くなる。出演後、彼女はプロデューサーから意外な言葉を聞くことになる。
「日本の女性は好感度を重視したキャラクター作りをするのに、金さんはそれを重視しないんですね」
面白い、と評価された彼女は、コメンテーターとして番組に出演し始める。しかし、韓国人として出演するたびにネット上に多くの悪口を書かれた。「なんで韓国人が日本を語るの?」しかし、努力すれば報われるときは来る。活動を続けていく中、大使館や市民団体など、多くの場所から関心を持たれた。
とある討論プログラムに出演した彼女は、相手を強く攻撃した。収録後、多くの人に称賛の言葉をかけられた。しかし、韓国人のADからは「あの人たちは、先生の目の前では称賛をするけど、後ろでは侮辱していますよ。日本人のように、おとなしく遠まわしに話せばいいのに……」と言われたそうだ。金氏は泣きながら反論した「あなたはなぜ日本に来たの? なにか変えたかったから日本に来たんじゃないの? 日本人になるんだったら、韓国に帰ったら?」
金さんが言うところの「認識、国家や世論の限界」である。確かに、韓国人のADが言ったことも一理ある。しかし、異邦人の役割は常にその社会に異質的な観点を与え、批判を受け、それが今後の挑戦であると言った。
「郷に入っては郷に従うのではなく、そこの習慣を変えろ」それが金氏の結論であった。
講演会後、私は日本人の留学生だと名乗り、彼女に握手を求めた。すると、「あらぁー、日本の子? 知らなかったー。がんばってね」。
講演会で語っていたように日本社会の中、「獅子の子落とし」で必死にはい上がってきた金氏はグローバルリーダーシップにぴったりな女性だと思える。金氏の夢は「日本の言論に韓国人が(芸能関係ではなく)当たり前のように登場する」ことらしい。金氏を見ながら、今後の日本言論界が楽しみになった。
(記者:武部 誉花)
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