９連勝の裏に…琴欧洲を変えた先代佐渡ケ嶽の“遺言”

夕刊フジ - 2008/5/20 17:00

　勝負に負けてニヤニヤする者はいないし、恨みごとのひとつも言いたい気持ちにもなる。とはいえ、あまりにも勝ったときと負けたときの差が激しいのも困る。

　負けた日の琴欧洲はまさに記者泣かせ。うつろな目で一点を見つめ、固く口を閉ざして一言も発しないのだ。これではそばについている付け人もどうしていいか、わからなくなるだけでなく、周囲の雰囲気も暗くなる。

　２年前の平成１８年初場所初日、念願の大関に昇進したばかりの琴欧洲は露鵬に上手投げで裏返しに叩きつけられ、門出を飾ることができなかった。部屋に戻っても、まるでこの世の不幸をひとりで背負いこんだように暗い顔で押し黙る琴欧洲に、人情指導で２０人を超える関取を育てた先代佐渡ケ嶽（元横綱琴桜、故人）はこう言って励ました。

　「勝負師は、シュンとしちゃダメ。暗い顔をしていると、勝負の女神はそっぽを向き、勝てる相撲だって勝てなくなるぞ。負けた日ほど明るく振舞え。それがホントのプロだ」

　今場所の琴欧洲は前場所までと打って変わって底抜けに明るい。２度目のかど番から一転して大関昇進以降、自己最多の初日から９連勝中ということもあるが、ようやく先代佐渡ケ嶽の言うことが理解できたようにも見える。

　稀勢の里の張り差しが左目に当たって一時的に視力を失った７日目も、「体が勝手に動いたよ」とこれまでとは別人のように笑い飛ばしていた。

　もともと素質は超ド級。「強くなったというイメージがあるね。落ち着いているし、思い切って取っている。これからが楽しみだ」とこの日、北の湖理事長も目を細くした。琴欧洲の笑顔、どうやら本物だ。

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