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【社説】

過労死判決 職場の命しっかり守れ

2008年5月24日

 くも膜下出血で死亡したのは度重なる海外出張による過労が原因−東京高裁は一審の長野地裁判決を取り消して過労死を認める逆転判決を言い渡した。企業は働く者重視の経営に立ち戻るべきだ。

 働き盛りの夫を失った妻の悲しみは解消しただろうか。過労死した男性は当時四十一歳。プリンター大手のセイコーエプソン(長野県諏訪市)の中堅社員として二〇〇一年十月に亡くなるまでの十カ月半、中国やチリなど計十回、百八十三日間の海外出張を繰り返していた。

 遺族は労災申請したが松本労働基準監督署は認めず、一審の長野地裁も残業時間が労災認定の基準である月間四十五時間に達していなかったことから請求を棄却していた。今回、東京高裁は「海外出張は生活習慣などの違いもあり相当の疲労を蓄積させた」と指摘。請求を棄却した一審判決と労基署の処分を取り消した。

 実態を踏まえた妥当な判決だ。残業時間が労災認定基準に達していないからといって業務との因果関係を否定するのは間違いだ。

 エプソンはこの判決を真摯(しんし)に受け止めてほしい。

 同社は昨年の技能五輪国際大会で社員が金メダルを獲得するなど、日本を代表するもの作り企業である。職場の労務管理を再点検することは当然だが、従業員の健康にもっと注意を払い人間尊重の経営方針を確認すべきだろう。

 日本企業は判決を人ごととしてはならない。昨年十一月、名古屋地裁はトヨタ自動車社員の死亡を過労死と認定した。原因として時間外の長時間の品質管理(QC)活動の存在を指摘した。

 長時間労働と過労死問題は外食・サービス産業などに広がっている。東京地裁は今年一月、日本マクドナルドに対して店長に残業代を支払うよう命じる判決を出した。同社の「名ばかり管理職」裁判はまだ決着していない。

 一連の判決で浮かび上がるのが最近の労働行政への批判である。労基署の決定を相次いで覆している。エプソンもトヨタ自動車の場合も、労基署の最初の決定は企業寄りとの印象がぬぐえない。これでは労働者がいざというときに駆け込む場所としての信頼は得られないだろう。

 政府の労働・雇用政策を原点に戻す必要がある。中堅社員の過酷な労働状況を改善し低賃金の非正規労働者をこれ以上増やさない。こうした政策を推進しなければ日本経済に活力は生まれない。

 

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