建設時の想定に比べ、5倍の揺れを想定する必要があるという。新潟県の柏崎刈羽原発について東京電力がまとめ、経済産業省の原子力安全・保安院に提出した報告書の内容だ。
柏崎刈羽原発では、昨年7月の中越沖地震で実際に「想定外」の揺れが記録された。それだけでも市民の不安は大きいが、かつての想定の5倍とは驚くような値だ。
いったいなぜ、これほどの開きが生じたのか。
原発の耐震指針は06年に28年ぶりに改定されている。全国の電力会社など事業者は、これを基に既存の原発施設の再評価を進めている。柏崎刈羽原発も新指針を基に再評価してきたが、その際に中越沖地震の観測データを踏まえるよう、求められていた。
その結果、揺れの大幅な引き上げにつながる複数の要素が明らかになった。第一に、中越沖地震の震源断層と思われる活断層を設計時に想定していなかった。これとは別に、連動して動く可能性のある三つの断層を別々に評価していた。
加えて、地盤の構造に揺れを増幅する特徴があることも明らかになったという。震源から出る波が重なり合う現象や、地層が波状に曲がった褶曲(しゅうきょく)構造による増幅効果だ。
東電は当時の知見ではわからなかったという。しかし、最新知見による見直しを定期的に行うべきだったのではないか。
今回の結果は、他の原発にとっても人ごとではない。柏崎刈羽以外の全国の原発も、新指針に基づく再評価で、想定される揺れを軒並み引き上げている。ただ、これまでの報告では、補強工事の必要はないと結論付けている。安全に余裕を持たせて設計してあるのでだいじょうぶという理由からだ。
だが、今回の柏崎刈羽のケースをみると、それで安心はできない。揺れを増幅する地下の構造は柏崎刈羽に特徴的なものと東電はみるが、別の場所にも同様の効果を生む構造がないとは限らない。柏崎刈羽が特殊だったとの思い込みは避けるべきだ。その上で、必要な補強工事をためらうべきでない。
柏崎刈羽を含め、原発の耐震性の再評価は国がチェックする。ここでも、電力会社の報告をうのみにするのではなく、責任を持った評価を尽くしてほしい。
東電は6月から補強工事を始めるという。しかし、中越沖地震による影響の点検も、まだ終わったわけではない。今回の報告書の妥当性も、補強工事の妥当性も、国の評価で覆される可能性は残されている。
原発にも地震にも、不確かなリスクがつきまとう。柏崎刈羽に限らず、非常に大きな揺れに見舞われる可能性のある場所で原発運転を続けるべきなのか。そういった根本的課題も含め慎重な検討が欠かせない。
毎日新聞 2008年5月24日 東京朝刊