2006.10.01  >>新八柱台病院小児科

溶連菌感染症の話
(A群β溶血性連鎖球菌感染症)

 

どんな病気の原因になるのか?

小児科では「溶連菌感染症 = 溶連菌による咽頭炎・扁桃炎」

合併症について

検査・治療について

無症状の保菌者について

学校など出席停止について

 

どんな病気の原因になるのか?

 

 溶連菌による最も一般的な病気は、急性咽頭炎・扁桃炎です。急性咽頭炎・扁桃炎に粟粒大のザラザラした発赤疹(皮膚の発疹)を伴う場合に「猩紅熱(しょうこうねつ)」と言うこともありますが、発疹を伴うかそうでなかの違いだけで、本質的には同じものです。

 次に多いのは膿痂疹などの皮膚の感染症で、その他に中耳炎・心内膜炎・敗血症などいろいろな化膿性疾患のの原因になる可能性があります。

 重篤な症状のため「人喰いバクテリア」として話題になることがある「劇症溶連菌感染症」の原因となる菌ですが、日本では比較的報告は少なく小児では希な病気ですでの過度の心配をする必要はありません。

 その他に別項で取り上げますが、急性糸球体腎炎やリウマチ熱などの非化膿性の合併症をきたすことがあります。

 

小児科では「溶連菌感染症 = 溶連菌による咽頭炎・扁桃炎」

 

 小児科で診察で溶連菌感染症と診断された場合は、溶連菌による急性咽頭炎・扁桃炎のことと考えてもらって良いかと思います。

 症状は、発熱・のどの痛み・発疹・イチゴ舌など認めることが多いのですが、必ず全ての症状が揃うとは限りません。

 他の風邪に比べのどの痛みが強いことが多く診断の助けになります。

 発疹は、粟粒大のザラザラした発赤疹で首・脇の下・股などを中心に全身に広がる可能性があり(ただし口の周りには出現しない)、多少かゆみを伴います。もともとアトピー性皮膚炎がある場合、アトピーが急にひどくなったということで受診される場合もあります。

 イチゴ舌は、舌が全体的に赤くブツブツした感じになります。

 診察してのどを診ると、真っ赤で扁桃腺に白色〜黄色の滲出物が付着していたりすることが多く、典型的な場合には診ただけで診断が可能な場合もあります。

 感染経路は飛沫および間接接触感染で、潜伏期は3〜6日程度と考えられています。

 溶連菌感染症は、何度でもかかる可能性があり、扁桃腺肥大のある場合などに繰り返しかかりやすい傾向があります。

 必ずしも典型的な症状でない場合もあり、症状に加え流行状況や検査を考慮しての診断が必要です。

 

合併症について

 

 溶連菌感染症に伴う代表的合併症として、「溶連菌感染後急性糸球体腎炎」と「リウマチ熱」があげられます。

 「溶連菌感染後急性糸球体腎炎」は、溶連菌感染発症後1〜4週間して茶褐色(紅茶やコーラのような色)の血尿で気付かれることが多く、その後尿が出なくなり、むくみがみられるようになります。発症した場合には、水分制限や安静など入院による治療経過観察が必要となりますが、通常は自然の経過で完治する予後良好な腎炎です。
 溶連菌感染症の一部に合併する可能性がありますが、抗生剤による適切な治療により合併のリスクは大きく減少し、最近では「溶連菌感染後急性糸球体腎炎」は希な疾患になってきています。
  ただし、明らかに先行する溶連菌感染症の症状を認めずに溶連菌感染後急性糸球体腎炎を発症する場合があります。

 「リウマチ熱」は、発熱・からだのふらつきや不随意な動き・心炎・関節炎などを認める疾患で、心炎を認めた場合など弁膜症など後遺症を残す可能性があります。ただし、最近では発症数は減少し、発症例も心炎を伴わない軽症例が多くなってきており、外来での迅速診断による診断率の向上と十分な抗生剤治療による成果と考えられています。

 溶連菌は、その構成蛋白質のなかのM蛋白の種類(血清型)により100以上に分けられ、ある程度この血清型と病気の間に関連が認められています。

 咽頭炎関連の腎炎:1、6、12

 リウマチ熱:1、3、5、6、18、19、24

 膿皮症や急性糸球体腎炎:49、55、57、59

 ただし残念ながら、診療で行う一般的な検査では血清型までは分かりません。

 

検査・治療について

 

「溶連菌の診断のための検査」

(1)培養検査:綿棒でのどを拭ってそこから菌を培養して溶連菌を確認するため結果がでるには数日かかります。

(2)迅速検査:綿棒でのどを拭うのは培養検査を同じですが、綿棒に付着した菌の存在を検出するため短時間(10分程度)で結果が分かるため、多くの場合外来では迅速診断が行われています。ただし、培養検査より若干検出率が劣ります。

 培養検査・迅速検査ともに、検査の手技や時期などの要因により検出率は100%ではないため、検査の結果より臨床症状を優先させる場合も少なくありません。

(3)抗体検査:血液中の溶連菌菌体成分に対する種々の抗体を調べることが可能です。採血が必要なのと日数がかかること、また1回の検査だけでその時点での診断を確定できないので通常行う事はありません。

 

「尿検査について」

 溶連菌の治療後に尿検査を受けるように指示されることが多いと思います。これは合併症「溶連菌感染後急性糸球体腎炎」チェックの名目で行われています。

 当小児科では、現在は溶連菌感染後の経過観察のために尿検査は行っていません。

 検査する時期にもよりますが、経過中1回尿検査を行って異常がなくてもその検査後に腎炎を発症する可能性があり、また早期に異常が発見できたとしても腎炎に対して早期に開始して進行を抑制するような特異的な治療法がある訳ではなく、その後尿色の異常に気づいた時点で病院を受診し治療を開始しても経過に変わりはありません。

 そのため、当小児科では尿検査は行わずに尿色の異常に注意してもらうようにしています。

 腎炎発症時の尿の色は、紅茶やコーラのような色なので通常本人または家族の方でも判断できます。

 

「治療について」

 溶連菌感染症の治療は、「その時点で認められる症状の改善」や「合併症の予防」といった二つの側面があります。

 抗生剤内服によりその時点での症状は速やかに改善しますが症状が改善したからといって治療完了ではなく、溶連菌がのどから消えることで治療の完了となります。

 ペニシリン系抗生剤の10日間内服が一般的な治療法で、この治療による除菌率は80〜95%程度となっています。その他の抗生剤も多くのものが有効ですが、個々の種類で何日内服すれば十分かなどの検討がペニシリン系抗生剤ほど行われていないのが現状です。また、マクロライド系の抗生剤では10〜40%程度の耐性菌が認められています。
 最近では、下記のセフェム系抗生剤5日間投与で同等の効果が得られとの結果が報告されています。

 ペニシリン系抗生剤:サワシリン、ワイドシリン、パセトシンなど

 マクロライド系抗生剤:エリスロシン、リカマイシン、ミオカマイシン、クラリスなど

 セフェム系抗生剤:フロモックス、トミロン

 当小児科では、溶連菌感染症診断後にペニシリン系抗生剤10日間内服を基本治療としており、診断14日後を目安に迅速診断にて菌の消失を確認しています。

 

「保菌者について」

 

 溶連菌は、無症状で咽頭に菌が検出されるいわゆる保菌者が存在し、小学生の調査では7〜30%が保菌者と考えられています。

 また、溶連菌感染症をして治療し症状はよくなったけれど、その後症状はないのだけれど検査をすると溶連菌が検出される状態が続き保菌状態になっている場合もあります。

 通常は、無症状の保菌者は治療の対象になりません。

 保菌者でも治療の対象となる場合:

(1)保育園・幼稚園・学校など身近な集団内で溶連菌感染症の流行がある場合

(2)適切な治療にもかかわらず家族内である特定の期間に溶連菌感染症の発症を繰り返し認める場合

(3)「溶連菌感染後急性糸球体腎炎」か「リウマチ熱」の流行中

(4)リウマチ熱の家族歴がある場合

(5)家族が溶連菌感染症に対して過度の不安がある場合

などが考えられます。

 

「学校など出席停止について」

 

 適切な抗生剤治療が開始されれば、24時間経過すれば人への感染の心配はないと考えられています。

 治療開始し症状が改善し、一日以上経過していれば登校等は可能と考えられます。

 当小児科では、治療開始し治療開始翌日(2日目)は休んで様子みて、症状が改善していればその翌日(3日目)には通常どおりの生活に戻ってもよいようお話ししています。ただし、抗生剤はしっかり継続しなければなりません。