石破茂防衛相が21日、防衛省改革会議に示した防衛省の改革案は、「文官優位」の現状を改め、欧米諸国にならい主要業務を背広(文官)、制服(自衛官)の混合組織に委ねる方向性を打ち出したのが特徴だ。ただ、日本では先の大戦の反省から官僚が制服部隊を管理する「文官統制」の中で、内局と4自衛隊幕僚監部(陸海空、統合)がそれぞれの組織利益を拡大させ続けてきたとあって、今回の改革案には背広、制服双方から強い反発が上がっている。(赤地真志帆)
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■内局つぶし?
石破氏は2月末、改革案を練る省内の「改革推進チーム」に3つの論文を配布した。
その論文の一つは内局が大臣補佐を名目に軍事的事項にまで介在する現行の制度を「世界に例がなく、軍事的適合性を欠く」と批判。内局の局長・官房長が所掌にとらわれず大臣を補佐する防衛参事官制度の廃止などをうたっていた。
省内には「石破氏の真意は内局つぶしにある」との憶測が飛んだが、実際の狙いは指揮命令系統を大臣をトップとする一本線に改めるということだった。そのためには幕僚長をトップとする各自衛隊組織も改革の対象となるのは必定で、各幕僚監部の全廃・縮小などが議論に上ると、抵抗は制服組にも広がった。
石破氏がチームと練り込んだ改革案を事務次官、4幕僚長に示したのは防衛省改革会議2日前。省幹部は「改革案は防衛省・自衛隊の全権限を大臣に集約するのが狙い」と解説した。
■幕僚長は格下げ
イージス艦衝突事故後の対応では背広、制服が別々に防衛相を補佐する二重構造が大臣への通報遅れにつながった。現代戦では軍事的知見を有する制服スタッフが内局組織に入って文官とともに大臣補佐に当たるのが世界の軍事組織の趨勢(すうせい)で、英国防省は文官7割、軍人3割の混合組織だ。
改革案では、自衛隊の部隊運用、次期中期防衛力整備計画立案などの主要業務を背広、制服混合の新組織として独立させ、一元的に管理する。部隊運用では従来制服の統幕・各幕、背広の運用企画局を通していた防衛相の命令が一本で届くため、迅速な部隊展開が可能となるメリットがある。
防衛力整備についても陸海空各幕僚監部を背景とした予算の取り合いの結果、ほぼ20年間不動できた定員・予算シェアの大胆な見直しが行われる。ただ、制服組トップの統合幕僚長が事務次官より格が下の局長ポストで運用(作戦)部門の長となる可能性が強く、省内には違和感を覚える向きもある。
■後門の狼
改革案は6月に防衛省改革会議の報告書としてまとめられるが、21日の会議では「内局と各幕の関係を変えることより相互の役割分担を見直すべきだ」などの慎重論が相次ぎ、防衛省案を支持する意見は出なかった。福田康夫首相は大型連休中の4日、都内のホテルに石破氏を呼び、改革案の説明を受けたが、首相の隣には外交ブレーンである五百旗頭真(いおきべ・まこと)防衛大学校長が控えていた。
五百旗頭氏は防衛省改革会議のメンバーで、「石破氏が提唱する背広、制服混合案には慎重な立場」(防衛省幹部)とされる。石破氏の意向の強い改革案が実現するかはまだ紆余(うよ)曲折もありそうだ。
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□元統合幕僚会議議長・西元徹也氏に聞く
■大臣補佐官設置は評価
政治任用の大臣補佐官を設置することは評価できる。しかし、大臣の寿命が1、2年では、補佐官も素人のままで交代する。大臣の任期を3、4年にすることとセットで導入すべきだ。
中央組織の主要業務を3つの部門に集約することは、防衛省案でも内容が固まっておらず、軽々にコメントすることは控えたい。運用を一元化することと、文官と制服の一体的な業務の推進には何ら異論はない。
ただ、運用部門を統合幕僚監部に吸い上げた上で、スタッフ機能は各幕僚監部に残すべきだ。同盟関係の維持・強化や国際平和協力活動を考えると、自衛隊も他国の陸海空軍が持つような機能を持たなければ他国の軍隊との連携、調整、協議が円滑に進まない。組織の練度、活力、士気の面でも戦力整備と教育訓練は陸海空自衛隊がやるべきだ。(談)
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【防衛省改革案要旨】
一、防衛参事官制度は廃止し、政治任用の「大臣補佐官」を設置する。
一、防衛相、副大臣、政務官、大臣補佐官、事務次官、内局官僚(背広組)・自衛官(制服組)のトップクラスをメンバーとする防衛会議を設置する。
一、「政策企画立案・発信部門」を創設(内局官僚中心の混合組織)。
一、統合幕僚監部と運用企画局を統合し「運用部門」を創設(自衛官中心の混合組織)。
一、防衛政策局の防衛計画課、経理装備局、陸海空幕僚監部の防衛力整備部門を統合し、主要な整備事業を一元的に取り扱う「整備部門」を創設(混合組織)。
一、「運用部門」と「整備部門」は(1)内局への一元化を重視して官房・各局に置く(2)特別機関に置く−の両案があり得る。
一、部隊訓練などの機能は(1)内局に一元化(2)新設の「総監部」などに移管(3)幕僚監部に残す−の3案が考えられる。
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