各界著名人の皆さまからのコメント
5月13日に六本木ヒルズ「東宝シネマ」で行われた『METAL GEAR SOLID4 GUNS OF THE PATRIOTS』完成披露パーティーにて、
出席者の方々に配布されましたプレスシートに掲載されております、各界の著名人の皆様よりいただきましたコメントを
以下にご紹介させていただきます。





日本のアニメーションはいま、大きな転換期を迎えています。
なんなら落日の期を迎えた、と言ってしまっても構いません。
巨大な慣性質量を抱えたままコーナーに突入し、いまさらブレーキを踏んでもコースアウトは目に見えているし、かといってアクセルを踏み続ければクラッシュは避けられない―いずれにせよ大きく減速して首位の座を明け渡すF1マシンのような状態にある、と言っても過言ではないでしょう。
世界に冠たるジャパニメーションがそのピークを過ぎて、すでに数年が経ちます。
昔日の勢いを取り戻すことは、もはや二度とないでしょう。
一度でも減速して脱落すれば、トップグループに返り咲くことは二度とない、というメディアの原則に例外はありません。
技術開発のための投資と、人材発掘の努力を惜しんだ当然の結末である―とはいいながら、しかし未だ現場にある者として、他人事として済ませられぬこともまた事実であり、実践的課題なるものを提示しつづけることもまた、監督と呼ばれる人間の責務ではあります。
CGIの技術を補助的に活用することでセルアニメーションの限界を突破する、などという折衷的な主題はとうの昔に色褪せています。
セルアニメーションの根幹を成すべき作画技術の相対的な落ち込み、という深刻な状況を回復不能な命題として認識する者なら、
セルアニメという成熟した共同体を離れて、
CGIという未開の地に踏み込むしかない―わけても 3Dキャラクターアニメーションと呼ばれる<秘術> を習得するしかないのだ、という覚悟は当然の帰結でなければなりません。
ただし、この<秘術>を日本的な意味合いにおいて―つまり映画として具現化したアニメーションは未だに存在しません。
ハリウッドのアニメーションが実現してみせたような、言ってみれば牧歌的な主題と方法論ならばともかく―彼らと同じ途を辿っていたのでは、その産業の規模において拮抗し得る筈もなく、したがってまた需要も派生しないことは明らかなのですから―ジャパニメーションと呼ばれたものがそうであったように、それは日本人の感性に基づく独自の様式でなければなりません。
あえて<秘術>と呼ぶ所以でもあります。
その必要性を漠然と理解しつつ、しかし微温的な共同性に浸って慣性質量のみを増加させつづけてきたアニメーションの世界にその秘術を期待することは、残念ながら望むべくもありません。
この十数年を省みるなら、アニメーションの世界に関わる者が無意識に避けつづけてきたその課題を、技術と規模において正面から受け止めてきた者たちこそが、ゲームに携わる者たちだったのでしょう。
彼らは様々な世界における映像の成果を参考にしつつ(かつてアニメーションに携わっていた者たちがそうであったように)、独力で自らの様式を築き上げてきたに違いありません。
瞠目すべき成果も、また単に劣化コピーと呼ぶしかないものも含めて、夥しいCGIが量産され―それら全てをスキルの原資として自己の方法論を確立しつつある者もいる筈です。

「MGS4」はその頂点を極めるものであり、小島秀夫というゲームプロデューサー/監督が現時点において<秘術>に最も近い存在であることは、確かなことのように思えます。
少なくともリアリズムと呼ばれる様式を基調とした映像表現に関する限り、それは間違いありません。
ハードのスペックや、技術者の自然成長的なスキルがそれを可能にした、と考えてはなりません。
彼の演出は「MGS」シリーズとともに大きく成長しており、今回の「MGS4」においては初期の作品の特徴だった早いテンポのカット回しや過剰とも思えるカメラワークは影を潜め、ようやくにして実現された映像それ自体の情報量―間違いなく、それは彼にとって久しく待たれていたものですが―を存分に活用した完成度の高いレイアウトと緩急のある時間軸、キャラクターの入念な演出、そう言ってよければ映画的な演出を随所に見出すことが出来ます。
殊に女性キャラクターを扱う手腕において、それは顕著に思えました。
大きな成果であり、刺激的な仕事です。
正直、同様の主題を扱う際に彼の方法論と競合することは誰しも避けなければならないでしょうし、
同様の作業は彼をおいて困難であるに違いありません。
現時点において可能な表現は為されました。
さらなるステップへ向かうために、「MGS4」の成功を祈ります。

2008年05月03日
1951年生まれ。東京都出身。
アニメや実写映画を中心に活動している世界的クリエイター。
映画監督、演出家、ゲームクリエイター、小説家、脚本家、漫画原作者と活動は幅広い。
代表作『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』では、1996年に米ビルボード誌でセルビデオチャートNo.1を獲得。
2004年には『イノセンス』で、日本アニメにおいて初めてカンヌ国際映画祭コンペ部門にノミネートされた。
現在2008年公開予定の『スカイ・クロラ The Sky Crawlers』を製作中。



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