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2008年05月22日┃宇宙基本法

宇宙基本法 宇宙軍拡に道開く「防衛目的」解禁

 法案は、宇宙開発利用について「国際社会の平和および安全の確保、わが国の安全保障に資するよう行なわなければならない」とうたっている。これまで「非軍事目的」と解釈してきた67年批准の国連宇宙条約の「平和的目的」と、69年採択の国会決議の「平和の目的」を「防衛目的」(非侵略)に変更し、宇宙の軍事利用に道を開くものだ。

 確かに、宇宙利用は「憲法の平和主義の理念にのっとり行なわれる」とされている。しかし同時に、宇宙条約「その他の国際約束の定めるところに従い」とも明記されており、条約を「防衛目的」容認と解釈し直すことによって、軍事利用解禁の目的の障害はなくなる仕掛けとなっている。

 この動きの背景には、日米一体のミサイル防衛(MD)体制整備があることは間違いない。90年の日米衛星調達合意で実用衛星市場から閉め出された日本の航空宇宙産業界の焦りと、MD協力を推進したい防衛省や族議員とが結びついた格好ではないか。これを見越したように、07年2月公表の「新アーミテージ報告」は「日本が通信、早期警戒、諜報の分野における安全保障協力を増進させるため、宇宙の利用に関心を持つことを歓迎し、日本の国会がこの問題を進んで議論することを関心を持って注視する」と明記していた。

 米国は、宇宙での排他的軍事覇権確立を明確に国家戦略目標として掲げており、日本はその補完役となることが期待されている。従来政府は、情報収集(偵察)衛星運用などを「一般的に利用されている機能と同等の衛星であれば」利用は可とする「一般化原則」の適用と説明してきた。だが、MD網の不可欠の一環である早期警戒衛星(DSP)のような高度軍事技術を開発・利用するためには、平和利用の壁を突破することが迫られているのだ。

 「心配なのは軍拡競争の宇宙への拡大」(9条世界会議でノーベル平和賞受賞者のマイレッド・マグワイアさん)。道路をめぐる派手な対決パフォーマンスの裏で、二大政党が「ポスト保革対立」の宇宙政策合意を平然と取り交わす。これがいかに、平和をめぐる対抗理念を失った政治の空洞化を促すとともに、「宇宙戦争」という人類の未来にとっての重大な危機を招くものであるかを、はっきりと認識しなければならない。

(社会新報08年5月14日号より抜粋)

(参考)
「宇宙基本法案」について

2008.4.22
社会民主党政策審議会

1.なぜ宇宙基本法か

  1969年の宇宙開発事業団の設置に伴い、国会は同年5月、「わが国における宇宙の開発及び利用の基本に関する決議」を全会一致で行い、わが国の宇宙開発・利用の基本は「平和の目的」に限り、行うことを定めた。政府はこれまで、宇宙条約第4条で定められる宇宙の平和利用の「平和」について、1969年の国会決議に基づき、「非軍事」であると国会で答弁してきた。これが日本を取り巻く安全保障環境の変化に合わせ、偵察衛星導入やミサイル防衛網整備等の障害となっていることから、宇宙開発を非軍事目的に限定してきたこれまでの政府解釈を変更するため、宇宙基本法の制定を目指してきた経緯がある。

2.軍事利用を認めよ!

 自民党は、政務調査会に宇宙開発特別委員会をつくり、2006年4月12日に「中間報告」を発表した。宇宙の平和利用について、防衛目的の軍事利用は可能であり、非侵略であれば宇宙の軍事利用は許容範囲であるという解釈が国際標準という考え方に立って、「専守防衛に基づく自衛権の範囲内の宇宙活動が認められると考えるべきである。過去の国会答弁に拘り続け、宇宙平和利用の解釈を「非軍事目的」で厳密に縛ると、事実上軍隊化している国際テロや海賊の監視など危機管理の面でも宇宙を利用出来なくなり兼ねない」(自由民主党政務調査会宇宙開発特別委員会中間報告)と指摘し、安全保障を含めた関係省庁の宇宙利用ニーズをくみ取り、わが国の宇宙戦略を立ち上げるための法整備に取り組むことを政府に求めている。すなわち、軍事目的の宇宙開発のハードルを「非侵略」という名目で下げ、国際的には「防衛目的」の宇宙利用は可能と解釈されているとして、「自衛権の範囲内」での軍事利用を認める方針である。

3.国会決議がじゃま?

 また、これまでも平和利用決議によって制約された状況にあった自衛隊が、米海軍の保有するフリートサット衛星を利用した通信を行うに当たり、平和利用決議との抵触が問題となった。そこで1985年2月、政府は「一般的に利用されている機能と同等の衛星であれば利用することは可能」とする政府統一見解を出した(「一般化原則」といわれる見解)。その後情報収集衛星(軍事偵察衛星)の打ち上げについても一般化理論が拡大適用され、内閣官房が保有する衛星のデータを利用することが可能となった。しかし、一般に使われていない軍事用高解像度の衛星などは制限をされる。そこで「宇宙平和利用決議は国会決議であり、一般化原則に代表されるような制約のように、政府はこの決議の枠組みの中でしか行動できない。したがって、国会が政治主導でこの問題を解決しない限り、宇宙を活用した国家戦略の構築への突破口は開かれない。この国会決議にある「平和利用」の再定義をする方法として」(自由民主党政務調査会宇宙開発特別委員会中間報告)基本法制定が位置づけられている。したがって、基本法制定によって、「わが国の宇宙開発と利用は平和目的に限る」とした、1969年5月9日の「わが国における宇宙の開発及び利用の基本に関する決議」が無力化されることになる。

4.軍事利用に道を開く

 基本法制定によって、研究開発を中心としてきたわが国の宇宙政策は軍事利用に道をひらかれることになり、大きな転換を迎える。従来、「非軍事」で縛られていた自衛隊自身による衛星の打ち上げや、高解像度の情報収集のための偵察衛星開発、ミサイル防衛に不可欠な弾道ミサイルの発射検知のための早期警戒衛星の開発と保有も可能となる。

5.やっぱり軍事利用目的の法案

 自民党の元々の法案の基本理念には「宇宙開発はわが国の総合的な安全保障に寄与するものでなければならない」と明記され、軍事利用の余地を与えようとしていることは明白である。その後衆議院に提出された法案は、第2条で、「日本国憲法の平和主義の理念にのっとり、行われるものとする」とされたが、「国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障に資するよう行われなければならない」(第3条)として第14条に、「国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障」の規定を設けている(「国は、国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障に資する宇宙開発を推進するため、必要な施策を講ずるものとする」)。軍事利用の余地を与えようとしている本質は変わっていない。

6.国際競争に負けるなと資本・財界も推進

  一方、法案には、「民間事業者による宇宙開発の促進」として、「宇宙開発に関する研究開発の成果の円滑な企業化等により、我が国の宇宙産業その他の産業の技術力及び国際競争力の強化をもたらし、もって我が国産業の振興に資するよう行われなければならない」という規定が盛り込まれ、軍事面と同時に資本・財界の意図も見落としてはならない。「日本の宇宙開発はもはや、「国威発揚」や、「有人飛行による夢の実現」的な捉え方は今の厳しい国家財政の下では、広く政府や国民に受け入れられる状況にない」から、「広義の安全保障(外交、防衛、経済、防災、治安対策を含む)、即ち総合的な安全保障戦略、外交戦略として現実的に捉えるべきであり、防衛、外交、経済、社会生活の面で国家の総合的安全保障に資する戦略を現実的に捉え直し、強く訴えていく必要がある」(自由民主党政務調査会 宇宙開発特別委員会中間報告)ということを強調し、「これから時代の日本の宇宙利用開発は、国家戦略を「安全保障」「産業化」「研究開発」の3本の軸から立案し、文部科学省による研究開発行政に加え、外交や防衛等を含む、宇宙の実利用行政を統括する新しい行政の仕組づくりが急務である」としている。この背景には、財界の不満がある。日本の宇宙開発予算は約2500億円は減少傾向が続き、日本航空宇宙工業会によれば、03年以降、国の予算の減少割合以上に官需が減少し、産業界にお金が回らなくなり、宇宙産業の空洞化・弱体化が進んでいるという。そこで法案は、日本経団連の『我が国の宇宙開発利用推進に向けた提言』(2006年6月20日)に沿い、このままでは宇宙産業の競争力強化が困難であり、宇宙開発に必要な技術基盤が脆弱となるという資本の側の問題意識に立って、「日本の宇宙産業促進」、そのための経済・財政的支援、国家としてのサポート体制の整備を狙おうという意図も明白である。

7.民主党案も本質は変わらず

  民主党も宇宙基本法検討PTなどで、民主党案の検討を進めてきた。民主党は、宇宙環境との調和・共生を図りつつ、防災・環境・食料・エネルギーといった、国民生活はもとより地球全体の利益向上に資するために行うという政策の方向性、概要を確認しつつ、宇宙の利用範囲については、「憲法の平和主義の理念を基調として、宇宙条約等の宇宙開発に関する条約その他に従い、行う」と明記していた。この宇宙条約は、宇宙の平和利用を掲げ、宇宙に大量破壊兵器を配備しないと定めているが、防衛目的なら制約はないとされており、民主党案も同条約に言及することで、諸外国と同様、「非侵略」目的なら軍事関連でも宇宙利用に道を開くものとなった。そのうえで民主党案と与党案の大きな違いは、@宇宙の平和利用についてより憲法の制約を強めた書きぶりになる、A宇宙産業の国際競争力向上や打ち上げた衛星によるビジネスに狙いがある、B宇宙開発推進体制について、元々の民主党案では、文部科学、経済産業両省や独立行政法人宇宙航空研究開発機構などの宇宙関連部門を統合して、「宇宙庁(仮称)」を設置するなどの組織改編が必要であるという点にあった。今回、与党と民主党のすりあわせが行われ、@「宇宙利用」を「宇宙開発利用」にする、A第1条の目的規定に「日本国憲法の平和主義の理念を踏まえ、環境との調和に配慮しつつ」を挿入する、B第14条に「税制上の措置」を挿入、C第16条に「我が国の宇宙産業その他の産業の技術力及び国際競争力の強化を図るため」を挿入、D附則第2条で、「政府は、この法律の施行後速やかに、独立行政法人宇宙航空研究開発機構その他の宇宙開発に関する機関について、その目的、機能、組織形態の在り方等について検討を加え、必要な見直しを行うものとする」を挿入するなどの修正が行われることになったが、宇宙基本法の持つ危険な狙いを払拭するものとはいえない。

8.非軍事の宇宙基本法を

  日本は、日本国憲法の平和主義にしたがい、「宇宙条約」よりもさらに厳しい枠をはめた。1969年5月9日の「我が国における宇宙の開発及び利用の基本に関する決議」に基づき、国会の議論で「防衛的な利用」も禁止している。ミサイル防衛を制限なしに推進するとともに、宇宙産業の競争力強化という日本の財界の狙いのために宇宙基本法案が構想されたという面が強い。国民的論議と合意を得ながら、あくまで「自主・民主・公開」を旨にした学問としての宇宙開発とともに、非軍事で宇宙の平和利用に徹し、1969年の全会一致の国会決議に基づく宇宙基本法制定を目指すべきであろう。

 

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