性暴力被害の豪女性、見舞金に納得せず
【東京】二〇〇二年四月に神奈川県で米兵に暴行された四十代のオーストラリア人女性、ジェーンさん=仮名=が二十二日までに防衛省から見舞金三百万円の支払いを受け、同日、都内で会見した。ジェーンさんは「思いが皆に伝わるのに六年もかかったが、私が欲しいのはお金ではなく正義」と涙ながらに語り、加害米兵や米政府の公式な謝罪と慰謝料負担を訴えた。
その上で「私は絶対に黙らないし、あきらめない」と思いを新たにし、米兵らによる性暴力根絶をあらためて呼び掛けた。
PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しみながら、公の場で自らの体験を語り続けてきたジェーンさん。これまでの自主活動による出費も多く、見舞金はほとんど手元に残らない見通しだという。
防衛省から、見舞金の性格上、裁判で確定した額すべてを支払うのは困難として、価格交渉を提示された経緯も明かし、「私はバーゲンのセール品じゃない」と非難した。
三月二十三日に北谷町で開かれた「米兵によるあらゆる事件・事故に抗議する県民大会」で登壇し、犯罪根絶を訴えたジェーンさん。会場で、米兵による性暴行被害を受けたことがあるという高齢の女性に「あなたの話で人生をまた始められる」と声を掛けられたことも明かし、連帯の広がりに期待を込めた。
会見には、被害者遺族でつくる「米軍人・軍属による事件被害者の会」の海老原大祐代表も出席。国会議員らに、米側に賠償責任を負わせる法案の議員立法を求めた。
[ニュース近景遠景]
“肩代わり”犯罪を助長/実態は98%泣き寝入り
米兵に暴行されたオーストラリア人女性に対する見舞金の問題は、日本政府が賠償金全額を肩代わりする異例の決着となった。民事訴訟で賠償金を命じられた米兵は除隊となり帰国、米側も支払いを拒む中、六年に及ぶ女性の粘り強い行動でようやく補償された「特異なケース」(防衛省)。しかし、被害者の関係者らは、相次ぐ米軍関係の事件・事故の下で大勢が依然として泣き寝入りを余儀なくされている実態を指摘、制度の改善を訴えている。(東京支社・島袋晋作)
政府内に異論
「私は正義を求めているだけ。レイプした人に責任を取ってほしい」
二十二日、都内で会見した女性は、被害を立証するためのこれまでの苦労を切々と語り、あくまでも米側の責任を訴えた。
日米地位協定によると、米軍関係者が公務外に起こした事件・事故は原則、当事者間の示談で解決するが、それが困難な場合、米政府が補償金を支払う。
賠償は被害の立証が前提となるが、同事件で米兵は不起訴処分となった。このため、女性は損害賠償を求め東京地裁に提訴したものの、訴えが認められた二〇〇四年十一月には、米国内法の時効を過ぎていた。
防衛省は被害者への補償が困難になった場合に米側に代わって救済する「見舞金制度」を、時効案件で初めて活用。賠償金の全額を補償したのも初だが、石破茂防衛相自身、会見で「国民の税金を使って何だ、という議論もあろう」と述べるなど、政府内にもわだかまりがくすぶっている。
米政府は2割
防衛省が確認している公務外の事件・事故数は一九九九―二〇〇六年度の八年間で一万二千七十八件。示談が成立せず、米政府から補償金が払われたのはわずか約2%の二百二十九件だ。
防衛省は「ほとんどが示談で処理されている」とするが、「米軍人・軍属による事件被害者の会」の海老原大祐代表は「示談なんて無理。言葉が違う問題など、大勢が泣き寝入りしている実態がある」と指摘する。
米政府からの補償金も、「米政府は直接の加害者ではない」という認識から、見舞金的なものでしかなく、海老原代表は「請求額の二割にも満たない低額なのが実態」と訴える。
被害者の会はこれまで、日本政府がいったん賠償金を払い、米側に全額請求する制度を求めているが、政府は閣議決定した政府答弁書で「法的措置を新たに講じる必要はない」と門前払いの状況だ。
これに対し、海老原代表は「ちゃんとペナルティーを与えないから事件・事故が減らない。日本政府が肩代わりすることが、米軍に特権意識を植え付け、ひいては事件・事故につながっている」と、米側の責任を強調する。