2008年05月22日
声の匠を称える賞「声優アワード」のイベントが行われた東京国際アニメフェア2008=3月30日、東京・有明の東京ビッグサイト
「お願いしたいことがあるんですけれど」。そんな伝言を電話に残された経験くらい誰にでもありそうだが、2006年春のこのメッセージは特別だった。なぜなら、「ドラえもん」のしずかの声であり、「サザエさん」のワカメがしゃべっていたのだから。
伝言の声の正体は、声優の野村道子さんだった。海外ドラマの日本語吹き替え50周年に当たり、「ベテラン声優たちの話を聞きたくない?」といったお誘いだった。二つ返事の答えが、「草創期の方々に登場してもらう連載を始めます」。題名は「声優SAY・ME」に決まった。
まさに、目からうろこだった。外国ドラマの吹き替え第1弾「カウボーイGメン」(1956年)の滝口順平さんは、英語を話す画面の役者の呼吸にぴったり合わせて日本語を吹き込む“神業”を披露した。「ヒッチコック劇場」(57年)の熊倉一雄さんは、海外文化をスムーズに日本人に口伝するための語り口を新調した。
そして、気品のある日本語を聞かせたオードリー・ヘプバーンの池田昌子さん、健康的かわいらしさで魅了したマリリン・モンローの向井真理子さんといったカリスマの努力によって、日本語の表現力や魅力がどれだけ広がったことか。
そんな声の匠たちを、これまで社会は適切に評価してきただろうか。例えば、報酬は顔出し俳優の7割と決められ、関係者から「当て師」とやゆされた。アニメブームに便乗中のわが国の政府も、声優としての活動のみを評価して勲章を授与したことが一度もないという。「日本アニメの隆盛も支えてきたのに、あまりにないがしろにされている」とはあるベテランの嘆きだ。
無言で買い物ができるコンビニ店や、黙々と文字を打つ携帯メールの急速な普及のおかげで、「声の文化が衰退していませんか」と声優たちは危機感を募らせている。そろそろ声の文化勲章、声の人間国宝が誕生すべき時ではないか。(小池真一・共同通信記者)