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5 月 22 日 (木)  
5/22(木)20:00更新
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治療中に有毒ガス発生 54人手当て
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熊本市の病院で、農薬を飲んだ男性を救急治療中に有毒なガスが発生し、54人が手当てを受けました。
この農薬について、男性を運んだ救急隊は病院に略称で伝えましたが、病院は特定できず対応が遅れました。

21日夜、熊本市の熊本赤十字病院で、農薬を飲んで自殺を図った34歳の農家の男性を救急センターの治療室で治療していたところ、男性がおう吐して強い刺激臭のする有毒なガスが病院内に広がりました。
ほかの救急患者や病院の職員が目やノドの痛みを次々に訴え、あわせて54人が手当てを受けました。
農薬を飲んだ男性は死亡しました。男性が飲んだのは、畑の土を消毒する際に使う「クロルピクリン」という液体の農薬でした。
揮発性がきわめて高く、医師が体内から取り除く処置を行った際、男性が吐き出した物が気化し、広がったとみられています。
この「クロルピクリン」という農薬について、地元の農家の人たちは「ピクリン」と略称で呼んでいて、搬送した菊池広域連合西消防署の救急隊は、家族の話などから男性が飲んだのは「ピクリン」と病院に報告し、書類も提出したということです。
病院はこの情報をもとに文献などで調べたところ、「ピクリン酸」という爆発性のある別の物質は見つけたものの、「クロルピクリン」という農薬の正しい名称を特定できなかったということです。
病院が、男性が飲んだ農薬を把握したのは、救急隊が持ってきた農薬の瓶を確認したあとで、すでに大勢の人が異常を訴えていました。
治療に当たった医師は会見で、「農薬の成分がわかっていれば、あらかじめ、ほかの患者を避難させておくなどの対応を取るべきだったと思う」と話しました。
熊本赤十字病院は今後、同じような救急患者を受け入れる際は、農薬の瓶で成分を事前に確認するなど、正確な情報の把握に努めたいとしています。
クロルピクリン 揮発性高い
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クロルピクリンは主に土の中の害虫の駆除に使われる農薬で、揮発性が非常に高いことから、地面をシートで覆うなど揮発したガスが広がらないようにしたうえで使用されます。
強い刺激のある有毒ガスで、誤って吸い込むと呼吸困難やおう吐などの症状が起こり、ひどい場合には死亡するケースもあり、海外では「催涙ガス」として使われることもあります。
このため「劇物」に指定されていて、法律で厳重な保管と購入の際の身元確認などが義務づけられています。
クロルピクリンをめぐっては、平成12年に福岡県の大学病院でこの農薬を飲んだ男性の治療に当たった医師や看護師など10人余りが、目の痛みや頭痛などを訴えたという報告があります。
また、平成13年、鹿児島県でたばこ畑の害虫駆除の際、このガスが漏れ、地元の小学生らおよそ140人が目の痛みを訴えて病院で手当てを受けたほか、今月7日には島根県の県の施設で保管されていた農薬が漏れ、8人が病院で治療を受けるなど、最近も事故が相次いでいます。
“危険性念頭に置き処置を”
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有毒ガスに対する治療に詳しい、杏林大学高度救命救急センターの山口芳裕教授は「クロルピクリンは毒性が非常に強いので、今回のような患者の場合、病院に入る前に衣服を脱がしてビニールに密封したうえで、牛乳などを患者の胃に入れて毒物を中和し、薄めたあと胃の中のものを吸引して外に出すといった慎重な対応が必要だ。 今回は患者を受け入れる時点でクロルピクリンを飲んだとわからなかったので、2次被害が起きることはある程度避けられなかったかもしれないが、農薬や洗浄剤を使った自殺では予期せぬガスが発生することがあるので、医療者はそうした危険性を念頭に置いて処置に当たるべきだと思う」と話しています。
※このニュースは5月22日20時00分時点でのものです。
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