「一人で行ける」とは言うものの、
早朝の電車がどんな具合か一度見てみようと思い、早起きする。
計算では、7:15発の電車に乗ることができれば、指定された登校時間にちょうどいい。
カーディガンは、色と形の要件を満たしていればいいとのこと。
だが、
「きっと誰も着てこないと思う。今日は校庭で全校生徒が集まるんだけど、校長様がいらっしゃる時には制服だけだそうらしいから」
しかし、北海道生まれ育ちのくせに、カーディガンを着ていても「寒い」と身をすくめている。
予定より2本早い電車に乗ることになった。
ホームに立っていると、紅円と同じ制服を着ているが、かなり背の高い落ち着いた感じの女の子がやってきた。
これは先輩か、と思い、紅円に合図を送ったが、気づかない模様。
だが、やはりレディース車両に乗るかと思われたその子は、どういうわけか、俺と同じ列に並んだ。
混んではいるが、9時前後の猛烈な満員ではない。
大人しい人たちが、小さく畳んだ新聞に目を落としているか、目をつぶって瞑目している。
先刻の女の子は、手にした日本史風の資料に目を落としているが、足元のバッグが人波に揉まれるので、引き寄せるのに大変そうだ。
ある駅で、バッグが大人たちのすねに挟まれてしまった。
一生懸命身を屈めて、手許にたぐり寄せている。
娘と同じ制服を着ている子ゆえ、他人事とも思われず、
「大丈夫かい? 手伝おうか?」と声をかける。
「大丈夫です。ありがとうございます」
朝の電車で会話を交わす人はいないので、いくつかの怪訝な視線を受ける。
先ほどの子が、
「さっきは、ありがとうございました」と言う。
「二年生ですか?」と訊いた。
「いいえ、一年生です。今日が初登校なので」
これは驚いた。
ずいぶんしっかりしている。
「そうなんだ? 実は僕の娘も一年生でね、隣の車両に乗ってるんだ」
「私も、女性専用に乗ろうと思ったんですけれど、混んでいたから」
「かえってそうかもしれないね」
「娘さん、何組ですか? 私はX組です」
ここではっきり「いろはに」で答えるべきところ、なんだか間違って、
「1組……いや、1じゃないや」と戸惑ってしまった。
嘘つきかと疑われるのを避けるべく、昨日覚えたX組の先生の名前を出し、
「あ、じゃあ、XX先生だね?」
「はい」
「あなたは、在校生組?」
「いいえ。受験で入りました」
それにしては、実に落ち着いている。
隣の車両から降りてきた紅円と、そのしっかりした彼女を引き合わせる。
互いに名乗り合い、並んでホームを歩いていく。
何の心配もない。
改札へ続く階段を上ると、娘の通う学園を含め、女子中高生の群衆……そして、きっちりした身なりのビジネスマンおよびウーマン。
不思議な駅だ。
それはそうだ──入試も合格発表も入学式も1学年だけだが、ぜんぶでその6倍の生徒がいるわけだから。
娘はもう心配なかったので、
「じゃあな」と言い残し、逆方向へ歩く。
昨日の嵐はどこへやら、うららかな日である。