副題に「源平北越流誌」とある通り、源平合戦の時代に題材を取っているが、単なる歴史劇ではなく、集団や戦いが持つ狂気など現代の問題に鋭く迫る作品だ。1980年に清水邦夫が発表した戯曲を、蜷川幸雄が初演出。
平家の名老将・斎藤実盛(野村萬斎)は、木曽義仲の軍と合戦を続ける。今は敵味方だけれど、実盛はかつて幼い義仲の命を救い、木曽山中の中原一族に預けた。実盛の長男・五郎(尾上菊之助)は、同世代の義仲、巴(秋山菜津子)らと親しく、彼らの軍に身を投じた。だが、五郎は謎の死を遂げ、今は亡霊となって、実盛の傍らにいる。
義仲軍に何があったのか。「まぶしいほど輝きに満ちた若者たち」による「森の国」の実体が明らかになってくる。義仲は心を病み、巴が代わりを務めたが、冷酷なはかりごとを重ねた。60年代から70年代の「政治の季節」、とりわけ連合赤軍の事件を思い浮かべる世代も多いだろう。けれど、この作品はそこだけに限定されていない。
「森」と「水」と「魂」をめぐる清水の詩的言語の厚みに圧倒される。白髪を黒く染めて戦いに加わろうとする実盛が、最期に「水があふれている」音を聴く場面は心を打つ。
生と死が共存し、実盛と亡霊の五郎が率直に語り合う親子関係が、伝統演劇の萬斎・菊之助の取り合わせでうまく造形された。過剰な情念が排除されていて、観客が入り込みやすい。その一方、秋山が巴の激情をうまく出した。27日まで。【高橋豊】
毎日新聞 2008年5月22日 東京夕刊