守屋武昌前次官の逮捕からまだ半年もたっていない。防衛省は、あの汚職事件を忘れたのだろうか。
事件の再発防止に触れない防衛省「改革」案が公表され、翌日には守屋被告を汚職に誘った山田洋行元専務の宮崎元伸被告が参院で証人喚問された。防衛省の物忘れ体質を告発する、皮肉な光景である。
防衛省は首相官邸に設置された有識者会議(座長・南直哉東京電力顧問)に機構再編を内容とする複数の「改革」案を示した。案の中身だけでなく、実現の見通しを考えると、多くの問題がある。
第1に、福田政権が有識者会議を官邸に設置するきっかけとなった守屋事件と「改革」の中身が結びつかない。守屋事件は、与党の国防族と結んだ官僚が絶対的な権力を握り、意思決定をゆがめた例である。
宮崎証言を聞いても、守屋被告と政治家との不明朗な関係がうかがえる。しかし防衛省の「改革」案は、「政と官」の関係見直しに目をつぶり、機構改編にすり替えた。
第2に、しかし内局文官と制服自衛官との確執がある防衛省の体質ゆえ、案をひとつに絞れなかった。石破茂防衛相が事件に便乗する形で語ってきた私案は省内ですら合意を得られなかった。
第3に、現在の政治状況を前提にすれば、防衛省が示した「改革」案は「頭の体操」にとどまらざるを得ない。防衛省の組織改編をめぐっては自民党内にも様々な声がある。仮にそれがまとまり、防衛省設置法改正案ができたとしても、衆参ねじれの現状では成立の見通しはない。
第4に、頭の体操をするなら、安倍前政権が法案を衆院に提出し、廃案になった日本版国家安全保障会議(NSC)設置の方が安全保障政策の観点からは優先順位が高い。安全保障は一防衛省にとどまらず政府の総合力が問われる領域だからだ。
集団的自衛権をめぐる憲法解釈の見直しも優先順位が高い。この制約を外せば自衛隊の国際協力活動は、より実質的になる。
有識者会議は「改革」案を差し戻し、守屋事件の再発防止策の提出を求める必要がある。特に、福田康夫首相に近い五百旗頭真・委員(防衛大学校長)の役割に期待する。