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社説:築地市場移転 豊洲では食の安全守れない

 中央区築地にある東京都中央卸売市場の移転先となっている江東区豊洲地区の土壌、地下水の詳細調査結果が明らかになった。

 土壌では発がん性のあるベンゼンが環境基準の4万3000倍に達した地点や、毒性の強いシアン化合物では検出限界の860倍という地点がみつかった。

 地下水の汚染はより広範で、環境基準を上回った区域の計画地域に対する割合は、ベンゼンで14%、シアン化合物で23%に達した。

 この調査結果をふまえて、豊洲地区の土壌汚染対策検討のために設けられた専門家会議は、19日の会合で計画地域全体で2メートルの深さまで土の入れ替えをすることや、地下水管理対策の徹底などを提案した。専門家会議は7月末に最終提言を行い、都はそれを受けた土壌汚染対策を行うことにしている。当初、670億円と見込まれていた土壌汚染対策費は1000億円を超すことになりそうだ。

 では、こうした対策で本当に食の安全は確保できるのだろうか。昨年時点の調査でベンゼンが環境基準の1000倍の高汚染地点が見つかったことで、豊洲地区が鮮魚や野菜などの市場立地上、問題が多いことが明らかになっていた。これに加えて、今回の詳細調査結果である。

 地下水対策や、深部土壌の対策、さらには、大地震時の液状化への抜本的対策まで完全に行うとなれば1000億円で済むとは思われない。

 東京ガスの工場跡地である豊洲の計画地区は築地市場の移転先として不適切といわざるを得ない。ところが、都は現在も「豊洲移転ありき」の姿勢を変えていない。専門家会議もこの路線上で設けられた。

 事業計画段階での環境影響評価がしっかりと実施されていれば、豊洲の土壌や地下水の高度汚染は早い段階でチェックされた可能性が高い。また、都は複数の地点から豊洲を選定したというが、東京ガスが汚染の事実を明らかにしていたことを踏まえれば、なぜ、ほかの汚染のない地点を選ばなかったのか、疑問が残る。

 都が移転を決めたのは01年だが、その後、消費者の食の安全に対する関心は大幅に高まっている。築地市場を経由した魚介類や加工品を口にするのは都民だけではない。全国に流通している。食の安全を最優先することが行政の責任だ。

 都は築地市場の跡地を16年に立候補している東京オリンピックのメディアセンターに利用する方針だが、土壌汚染対策の拡大で当初計画の12年開場が大幅に遅れることが確実で、それも危うい。それならば、豊洲移転をいったん、白紙にして、築地での再開発や移転の場合でも豊洲以外の候補地を選定する方が生産的である。

 決断は早いほうがいい。遅れれば遅れるほど、状況は悪化する。

毎日新聞 2008年5月23日 東京朝刊

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