公的年金制度の基礎年金部分について、現行の「社会保険方式」をやめて、財源をすべて税で賄う「全額税方式」に切り替えた場合、消費税率の大幅引き上げが必要である。政府が社会保障国民会議に示した三つの類型を試算した結論だ。
全額税方式に切り替えた場合の年金制度の給付と負担の関係について、政府が複数ケースを想定して初めて明らかにした具体的な試算だ。国民に分かりやすい形で制度の見直しを進めていく手掛かりとなろう。
全額税方式は、保険料未納者の増加や宙に浮いた年金記録など、社会保険方式で生じた問題の抜本的解決策として期待を集め、自民党議員の一部や民主党、経済界などが強く導入を主張してきた。
試算では、保険料の未納者も含め基礎年金満額を一律給付する場合、二〇〇九年度に追加財源十四兆円が必要で、消費税に換算すると5%になる。保険料未納者の給付をカットする場合は、財源は九兆円で、税率は3・5%。一律支給の上、保険料納付実績に応じ加算する場合は、最大三十三兆円が必要で、税率は12%になる。
国庫負担割合を二分の一に引き上げる税率1%を織り込むなどして計算すると、〇九年度の実際の消費税は9・5%―18%になる計算だ。大幅な消費税率の引き上げは、税方式導入の高いハードルとなるのは確実だ。
家計への影響については、基礎年金相当の保険料を支払う必要がなくなるが、消費税引き上げとの「差し引き」でみれば、現役世代のサラリーマンは負担が増える見通しとなった。年金受給世代も消費税増税分が負担増となる。
政府は、現行の社会保険方式を前提にして制度を一部見直した場合も発表している。年金改革では、考えられるさまざまなシナリオを出して、そのプラスマイナスを検討することが大切になろう。
少子高齢化によって、社会保障制度は厳しい現実に直面している。〇八年版高齢社会白書は、七十五歳以上の「後期高齢者」が〇七年現在で、総人口の9・9%を占めたと指摘した。働き盛り世代は、この先も増え続ける高齢者を支えていかねばならないことに不安がある。国民が安心できる年金としなければならない。
年金制度維持の視点だけで消費税上げを議論しても机上の計算となろう。医療や介護など含めた日本の社会保障全体の在り方についても、給付と負担の関係の試算を示すべきだ。国民的な議論を深めたい。
大手銀行六グループが二〇〇八年三月期決算を発表した。米サブプライム住宅ローン問題や金融市場の混乱長期化で損失が膨らみ、大幅減益が相次いだ。混乱の余波はなお続く恐れもあり、大手行は収益力強化の戦略練り直しを迫られよう。
六グループの純利益は約一兆八千六百六十億円で、前期比34%も減少した。サブプライムローン関連の損失は、みずほフィナンシャルグループの六千四百五十億円を最高に、六グループで一兆円近くに達し、半年前の予想額の三倍超となった。
巨額の不良債権処理を終えて財務体質を改善したはずの大手行だったが、高利回りを期待して飛びついたサブプライム住宅ローン関連の証券化商品に足元をすくわれた格好だ。格付けに依存して投資を拡大、売却が遅れた投資リスクの判断の甘さは否定できまい。
株式市場が低調だったことで、成長分野として各行が力を注いだ投資信託販売も落ち込んだ。金融市場の混乱で、預金者がリスクのある金融商品を敬遠する傾向が強まったためだ。
国内景気の減速で法人向け融資も低迷した。円高や原材料価格の高騰で企業経営がさらに悪化すれば、銀行収益を圧迫する恐れもある。日銀による利上げは実現せず、貸出金利の引き上げは足踏みしたままだ。
個人金融部門も、頼みの住宅ローンが振るわなかった。改正建築基準法の施行で、住宅着工件数の落ち込みが大きかったことが影響している。
法人、個人への融資に大きく依存した銀行の収益構造は変わらないだろう。しかし、海外での投融資のほか、収益力のある新たな事業モデルを生み出さなければ、逆風は乗り切れまい。そうした努力の積み重ねが経済活性化にもつながるはずだ。
(2008年5月22日掲載)