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2008年5月23日

◎金沢が「創造都市」申請 名乗りを上げる資格は十分

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)が承認する「創造都市ネットワーク」のうち、金沢 市が「クラフト&フォークアート」の分野で申請準備を進めることになった。「創造都市」の登録は国内では皆無だが、工芸を中心とした藩政期以来の文化の厚みや伝統産業の裾野の広がりなどを考えれば、金沢市が名乗りを上げる資格は十分にある。

 世界遺産登録運動を通して金沢城跡や茶屋街などの文化財指定を加速させ、「城下町」 の個性が鮮明になってきたように、「創造都市」登録を目指すことは、北陸新幹線開業へ向け、金沢の「工芸都市」「伝統産業都市」としての顔を際立たせる新たな目標になろう。金沢経済同友会が「金沢創造都市会議」の中で探ってきた「金沢像」の論議の蓄積も参考に、申請準備を怠りなく進めてほしい。

 ユネスコの創造都市ネットワークは二〇〇四年度に創設され、文学、音楽、映画など七 分野で代表都市の認定が始まった。その一つであるフォークアートは今年度から、工芸と民俗芸術を指す「クラフト&フォークアート」に変更され、金沢市はこの分野で十月ごろの申請を目指す。「創造都市」の登録は世界で九市だが、ユネスコはネットワークを広げる考えであり、金沢がいち早く準備を進める意欲は評価できる。

 当初はデザイン分野を考えていたが、国内では神戸、名古屋も申請中であり、クラフト の方が金沢の個性をアピールしやすいだろう。全国シェア99%の金箔をはじめ、漆器や仏壇、加賀友禅から、和傘、毛針、加賀繍などもある。分厚い工芸土壌に加え、金沢21世紀美術館に象徴される現代的な創造の場は、文化を前面に押し出して都市を活性化させるという「創造都市」の理念にも合致する。

 世界遺産登録運動が示すように、都市の魅力を外に向けて訴えていくことは、そこに住 む人たちが都市の価値に気付き、魅力を再発見することにもつながる。欧米で日本の工芸への関心が高まる中、「クラフト」という国際的な観点で金沢の工芸を見つめ直せば、伝統産業の新たな方向性も見えてくるかもしれない。

◎学校の耐震化率 小中校も全国平均超えを

 中国・四川大地震で、子どもたちの命を預かる学校があちこちで倒壊して大勢が犠牲に なったことを、地震国の日本に暮らす私たちも見過ごすわけにはいかない。政府が自治体の学校補強・改築事業に対する補助率の引き上げを表明したのは時宜を得ており、石川、富山県でも耐震化計画の前倒しを考えてほしい。

 石川、富山県で特に耐震化の遅れが気になるのは公立小中学校だ。二〇〇七年四月一日 現在の耐震化率は石川が56・1%、富山が56・0%と、全国平均の58・6%を下回っている。大規模な地震が起きる可能性が高いとされてきた静岡や神奈川などが全国平均を押し上げている側面があり、順位では両県とも中位にあるものの、やはり平均以下では心もとない。

 〇五年度の耐震改修促進法改正を受けて両県が策定した耐震改修促進計画には、一五年 度末までに学校施設の耐震化率を九割に引き上げるとの数値目標が盛り込まれている。市町村もこれに沿って小中学校の補強・改築を段階的に進めているが、まずは全国平均超えを目指し、耐震化のピッチを上げていきたい。市町村ではかねてから、財政難が小中学校の耐震化推進の足かせになっていると言われる。国の補助率が引き上げられれば、そうした自治体の背中を押す効果が期待できよう。

 富山県立山町は、危険校舎改築の財源を確保するために今年度から固定資産税率を上げ た。小中学校が地域住民にとっても地震後の避難拠点として大きな意味を持つ施設であることを考えれば、場合によってはそうした発想もあっていいだろう。

 県立高校では、富山が耐震化率約五割と全国平均の60・9%を下回っている一方で、 石川は65・5%に達している。とはいえ、石川にしても、三割以上がまだ不安というのでは胸を張れる数字とは言えまい。四川から帰国した日本の国際緊急援助隊員の一人が「中学生が、机に座って授業を受けていたんだろうな、という状況のまま亡くなっていた」と現地の惨状を振り返ったが、こんな悲劇を繰り返してはならない。


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