無理難題を学校に突きつけ、譲らない保護者が増えている。学校が問題を解決できないまま半年以上も抱えている事例は福岡市で約60件にも上る。市教育委員会は、対応に追われる学校の負担を軽減し教育に専念できるよう、今年度から弁護士ら外部の専門家に協力を仰ぐ「学校問題解決支援事業」を始めた。【高橋咲子】
保護者からの連絡はある日、突然だ。電話では納得しない保護者は昼休みに学校を訪れ、担任と面会。「指導に不満がある」と訴える。担任は謝罪し、校長も指導改善を約束する。だが保護者は「担任を変えて」の一点張り。話し合いは平行線をたどり、始業のチャイムが鳴る。教師は授業に出られず自習に。後日、要望は「担任を処分してほしい」「辞めさせてほしい」とエスカレートし、抗議の電話が連日のように続く。
福岡市で増えているこんな事例に、教師は悲鳴を上げている。市の調査では、学校や市教委の保護者相談室などで受けた保護者からの相談・苦情は全体で約2500件(06年度)。このうち学校への直接の相談は1001件(同年)で、前年度より160件増加した。その中で半年以上解決していない問題が47件、1年以上にわたるものが14件に上った。
「子供が写真の中央に写っていない」「トラブル防止のため学校が送り迎えをしてほしい」--。過度な要求をし「モンスターペアレント」と呼ばれる保護者について、市教委学校指導課は「実は、最初の要求自体が理不尽なケースはそれほど多くない」と言う。そのうえで「持ち込まれる相談には確かに対処すべきものもあるが、改善の提案を受け付けず、自分の要求以外は話し合いに応じないケースが多い」として、解決に向けた保護者の姿勢に問題があると指摘する。
市教委は現場をサポートするため、教委内に「学校問題解決支援チーム」を設置。職員や校長OBでつくる3人の常設チームに加え、連携する弁護士や医師らのメンバー選定を夏ごろまでに終える予定だ。「当事者」として受け取られがちな教育委員会ではなく外部者の力を借り、解決の糸口を探す。必要があれば外部メンバーが保護者に会い、仲裁にも乗り出す。今後、弁護士相談会を月1回程度開催して、法律的なアドバイスも得られるようにする。
文科省も、保護者からのクレームやいじめを含む解決困難な問題に対処するため、今年度から全国の9教委で調査研究を始めた。成果が出れば、外部専門家によるチームの設置・派遣事業を全国で導入するという。
保護者の相談に対し、学校側のあいまいな態度や不誠実な態度が問題をこじらせることも多い。市教委学校教育課は「解決するためには、どう信頼関係を築くかも同時に考えないといけない。ただ、失った信頼を回復するのはなかなか難しい。今後は対策マニュアルを作成し、研修を実施するなどして初期対応を誤らないようにしたい」と話している。
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■ことば
学校に対して非常識なクレームをつける保護者を指す。背景には学校への不信感や保護者の権利意識の高まりがあるとされる。政府の教育再生会議は昨年6月、学校が抱える問題について外部専門家と連携して機動的に対応するよう報告した。
〔福岡都市圏版〕
毎日新聞 2008年5月10日 地方版