◇学習効果への評価は根強く
平和や人権などをテーマにした映画を授業で上映する学校が最近、めっきり減っている。「九州共同映画社」(福岡市中央区)の年間巡回数はピーク時の約半分。学校側からは「授業時間が減り余裕がない」「保護者の金銭負担を増やせない」との声が上がる一方、「思いやりの大切さが実感できる」と学習効果を評価する意見も根強い。【阿部周一】
同社は今月で創立50周年を迎える映画配給会社。「橋のない川」(69年配給)、「はだしのゲン」(76年同)、「火垂るの墓」(89年同)など、これまで扱った作品は約600本。福岡県を中心に北部九州と山口県で、市町村教委や学校、PTAなどに1人400円の鑑賞料で自主上映を呼びかけ、依頼に応じて学校体育館などに映写機を持ち込み上映してきた。
平和と人権を一貫したテーマに掲げる一方、各時代の教育状況を反映した作品も多く取り上げている。81年には校内暴力が主題の「教育は死なず」。いじめが社会問題化した95年には個性の尊さを訴えるアニメ「5等になりたい」を配給。こうして、90年代後半までは年間約200校を巡回した。
だが、公立小中学校の完全週5日制が導入された02年ごろを境に依頼数は減少した。それまでは、土曜日が多かった学校上映会。「授業時間を割く余裕がない。組み替えは困難」というのが主な理由だった。最近は「給食費の滞納問題があるのに、上映料の負担まで保護者に求めにくい」との意見も聞かれる。同社の06年の巡回数は約100件。現在、上映会は公民館など公共施設を会場にした一般向けにシフトしつつある。
一方で「続けたい」とする学校もある。小郡市八坂の市立宝城中(服部哲武校長、生徒129人)は毎年6月、同社が配給する太平洋戦争をテーマにした作品を全校生徒でそろって鑑賞する。平和学習や2年生の沖縄修学旅行の事前学習に生かすためだ。
担当の村山毅教諭(44)は「映像は感性に直接訴える。戦争体験者の証言シーンなどから、戦争の本当の姿や平和の大切さを強く実感できる」と学習効果を挙げる。さらに「近くにいる仲間との関係を大切にすることが平和への第一歩だ、と自分自身に引きつけて考えを深める生徒も多い。これからも続けたい」と話す。
「学校上映の減少は戦争の記憶が風化し、戦後平和教育が自虐史観に基づくと批判を受けていることとも関係しているのかも」と井上祐治社長(48)は分析する。「映画は人の痛みや悲しみに近付く格好の手段。戦争やいじめの解決策をみんなで考えるきっかけになるはず。そうした機会が失われつつあるのは残念だ」
〔福岡都市圏版〕
毎日新聞 2007年9月16日