PRO-VISIONⅡ lesson4
プロビジョンⅡ lesson4
The World of Moomintroll ─ムーミントロールの世界─
①
児童文学の有名な作品がアニメを通じて世間に広く知られてきた。アニメ映画になった児童文学の有名な一例がムーミンである。このアニメは日本ではヒット作で、ヨーロッパの数カ国のテレビで放映された。このアニメのかわいい顔をしたキャラクターを見たことのある日本人は多いが、ムーミンの世界について本当はどれほど知っているだろうか?
日本の学生100人の調査で、次の質問が聞かれた。
1)ムーミンのことを何か知っていますか?
2)もとの話はどこから来たか知っていますか?
3)ムーミンの話にどんな印象を受けますか?
学生100人中、9割近くの学生が“はい”と答えたが、その4分の1しかその話の生まれた場所を知らなかった。3番目の質問に対する答えで、学生はかわいい、暗い、幸せ、楽しい、まじめ、やさしい、自分勝手などさまざまな印象を述べた。そのようないろいろな印象を持った理由は何だと思うだろうか?
②
ムーミン(彼の元の名前はムーミトロール)はフィンランド人の作家であり画家でもあるトーベ・ヤンソンによって生み出された。彼女は一連のムーミントロールの本を書いた。彼女の第1作目の『小さなトロールと大きな洪水』は第2次世界大戦直後に出版された。最初、それはフィンランドの新聞販売所でだけ売られたが、しばらくしてそのキャラクターが多くのフィンランド人の人気を得始め、その後26年以上トーベは話を書き続け、他の8冊のムーミンの本のイラストを描いた。
“ムーミントロール”という一風変わった名前はトーベのおじによって作り出された。彼はよく、“ムーミントロール”という目に見えない生き物が家のストーブの後ろに潜んでいると言って彼女を怖がらせたものだった。彼女が何か悪いことをしたとき、彼は彼女に「ムーミントロールが出てくるぞ!」と言ったものだった。
ムーミントロールの姿は、トーベが小さい女の子だったとき壁に描いた落書きしたキャラクターから来ていた。それは大きな鼻と長いしっぽを持ったぽっちゃりした生き物だった。トーベは成長する間このキャラクターを描き続けた。
20代のとき、戦争が始まった。戦争中、トーベは戦争に反対していた雑誌の表紙のイラストを描く仕事をしていたので、フィンランド政府は彼女の作品を発禁処分にした。彼女は描く意欲を失った。「この世界が混沌としているときは絵は何の意味も持たないように感じた。」彼女は言った。「私の身の周りのすべて物が色褪せていった。」
周囲の世界に落胆したので、トーベは彼女の新しい想像の世界を作り上げていった。彼女は子供時代の幸せな日々を思い出し、穏やかで平和な雰囲気を持った場所を見つけようとした。この場所がムーミン谷、ムーミントロールという名前の生き物とその友達が住む緑の木々に覆われた谷だった。「実を言うと、戦争中にそんな話を書くことは私にとって一種の現実逃避だった。」トーベは言った。
③
トーベの空想の世界はフィンランドの、果てしない緑の森と青い湖でいっぱいの土地の美しい自然を反映している。ムーミン谷では北欧のように夏は短く冬は長い。秋の終わり、冬のあいだ冬眠するためにムーミントロールと彼の家族は松葉をしっかり食べる。谷の生活は浮き沈みに満ちている。時おり洪水や竜巻、火山の噴火に見舞われる。物語のキャラクターたちは自然の脅威だけでなく難しい個人的な問題にも対処しなければならない。このことがムーミントロールシリーズを他の児童文学とは異なるものにしている。あるエピソードはこう進む。
─
ニニという名前の若い女の子が、おばがいつも意地悪なことばかり言うので自信をなくしている。彼女はとてもしょげてしまい、透明人間になってしまう。運のいいことに、彼女はムーミントロールの一家に出会う機会に恵まれる。彼らは彼女を歓迎し、やさしくもてなす。彼らの優しさに感動し、顔を取り戻すのに若干時間がかかったものの、彼女は次第にまた目に見えるようになる。ムーミントロールの小さくても強情な友達のちびのミイは彼女に言う。「闘うことを覚えるまで絶対顔は取り戻せないわよ。」
顔を取り戻すため、ニニは自信を得る必要があった。ある日、ムーミンパパがからかってムーミンママを海に突き落とそうとする。ニニはムーミンパパがムーミンママを傷つけようといているのだと考える。彼女は怒ってしっぽに噛み付いてムーミンパパを止める。彼女の顔が現れ始めたのはまさにこの瞬間である。大事なムーミンママを救うことによってニニは、彼女はこの時まで決して誰にも敢然と立ち向かうことはなかったのだが、顔を取り戻すことができる。ニニはムーミンパパに立ち向かったことで彼女は自信を得ることになる。
─
④
このエピソードが示すように、トーベは空想の物語を通じて人間の問題について取り組んだ。もしムーミントロールの世界に足を踏み入れれば、ムーミン谷の住人たちもあなたが自分の生活で直面するのと同様の問題を抱えていることが分かるだろう。だから読者は、キャラクターと物語を楽しむ一方で同時に人生についての教訓を学ぶことができる。空想の形態がいろいろな人々が彼女の物語の中に個人的メッセージを見つけることを可能にするのである。
トーベはムーミン谷の世界を作り出すことによって現実から逃避したいのだと言った。しかし実は、彼女は現実から逃げてはいなかった。そうではなく、彼女は現実に創造的に対処していたのであり、そうすることによって彼女は世界中の多くの子供たちを喜ばせてきた。「子供たちが自分が私の空想世界の中に入り込んでいるのに気付き、私の物語を記憶にとどめているのをみると、私はとても幸せを感じます。」トーベは言った。
35を超える言語に訳されているので、ムーミン谷の物語は世界中の人々の心を魅了してきた。ムーミントロールの世界は楽しいときだけでなくつらいときも人々を楽しませ、人生を輝かせるのである。/