坂井市の東尋坊で自殺防止パトロールに取り組むNPO「心に響く文集・編集局」(茂(しげ)幸雄理事長)にこのところ、県外から「今すぐ自殺したい」との電話やメールが相次いでいる。説得に応じ、再起を誓う手紙を寄せてきた男性もいるが、茂理事長は不安の色を隠せないでいる。【大久保陽一】
今月10日朝、東海地方在住の男性(32)から「これから死ぬ。窓ガラスに両足を突っ込み血が出ている」との電話があった。茂理事長はメンバーと一緒に男性の自宅に急行。けがは大事に至らなかったが、男性は同居の両親に暴力を振るっていたことが判明した。茂理事長はその場で家族会議を開かせ、二度と暴力を振るわないことを約束させた。
一方、16日午後には新潟県内の男性(46)から「もう死にたい」との電話があった。男性は13日、東尋坊をさまよっていたところをNPOに保護されたが、16日に帰宅したところ、母親が玄関先で首吊り自殺していたという。茂理事長は直ちに新潟に向かい、親戚から男性への支援を取り付けた。
パトロールがメーン業務の同NPOにとって、1カ月に二度も他県に赴き自殺志願者のケアをするのは異例。東海地方の男性からは「仕事を見つけて両親を安心させたい」との手紙が19日に寄せられた。茂理事長は「このままうまくいってくれればいいが」と再起を願う一方、「2人の男性に共通するのは、東尋坊に来るまで誰にも悩みを相談出来なかったことだ」と表情を曇らせる。
19日夜には新たに新潟県内の女性(26)から「遺書を残して灯油をかぶってみる」とのメールが届いた。茂理事長は「今後は県境を越えた自殺志願者の相談体制充実を訴えていきたい」と話している。
毎日新聞 2008年5月22日 地方版