カルテ提出拒否に罰金30万円以下−死因究明制度の原案

 医療死亡事故の原因を調査する「医療安全調査委員会」(医療安全調、仮称)の設置法案の原案が、5月21日までに明らかになった。医療安全調の構成のほか、事故のあった医療機関に対する立ち入りなどの処分権限を明記。医療安全調は医療機関に対し、事故に関する報告を求め、カルテや医薬品など事故に関係する物件を提出させることができるが、虚偽の報告をしたり、物件の提出を拒んだりするなどした場合には、30万円以下の罰金を科すとした。また、厚生労働省の第三次試案にある、捜査機関への通知の判断基準の中の「標準的な医療」などの表現や、届け出範囲の規定は不明確なまま残るなど、試案から基本的な内容が変わっておらず、医療界に波紋を広げそうだ。

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 原案の名称は「医療安全調査委員会設置法」。法の目的を、「医療事故死等の原因を究明するための調査を適確に行わせるため医療安全調査地方委員会を、医療の安全の確保のために講ずべき措置について勧告等を行わせるため医療安全調査中央委員会を設置し、医療事故の再発の防止による医療の安全の確保を図り、医療を受ける者の利益の保護及び良質かつ適切な医療の提供に資すること」とした。中央の医療安全調の設置場所については厚労省、地方の医療安全調は各地方厚生局と明記している。中央の医療安全調と関係行政機関との関係については、「医療の安全の確保のため講ずべき措置について厚生労働大臣または関係行政機関の長に対し意見を述べる」との表現だ。

 医療安全調の委員は中央、地方とも20人以内で、任期は2年。再任もありうる。特別の事項について調査・審議する必要があるときは「臨時委員」を置き、専門的な事項を調査・審議するときには「専門委員」を設置できるとした。委員は、医療安全調の事務について、「公正な判断ができ、かつ、医療、法律、その他その属すべき中央委員会または地方委員会が行う事務に関し優れた識見を有する者及び医療を受ける立場にある者」とし、医療や法律の専門家のほか、患者などからも選ばれることを示している。中央の医療安全調の委員は全員が非常勤だが、地方については常勤を4人以内で置くことができるとした。

 医療安全調の事故調査の趣旨は、「医療事故死等における医療を提供した者の責任を個別に追及するためのものでなく、医療事故死等に関する事実を認定し、これについて必要な分析を行い、当該医療事故死等の原因を究明し、もって医療事故の再発の防止を図ることを旨として行われるものとする」とした。

 「医療事故死亡者等」については、「医療事故死等に係る者または死産児」と定義した。事故があった医療機関に対して、地方の医療安全調が行える処分としては、▽医師や歯科医師、薬剤師、助産師、看護師など医療事故死の関係者に報告を求める▽病院や診療所、助産所など必要と認める場所に立ち入って、構造設備、医薬品、診療録、助産録、帳簿書類などの物件を検査し、質問▽関係者の出頭を求めて質問▽関係物件の提出を求めることと、物件の留置▽物件の保全▽事故死現場への、公務で入る人と医療安全調が支障がないと認める人以外の立ち入り禁止―などを明記。虚偽の報告をしたり、関係物件の提出を拒んだりするなどした場合には、30万円以下の罰金を科すとしている。
 また、医師や歯科医師、助産師が報告を怠ったり、虚偽の報告をしたりした場合は、医療安全調が医療機関や助産所の管理者に届け出を命令できるとし、そのために医療機関に立ち入って関係者からの報告を聞いたり、物件の検査や提出も求めることができるとした。

■調査報告書の公表義務付け

 
地方の医療安全調が作成した調査報告書については、厚労相と中央の医療安全調に提出するとともに、医療事故のあった医療機関や助産所の管理者と遺族にも交付して、公表することを義務付けた。報告書には、▽医療事故調査の経過▽臨床の経過▽死体または死胎の解剖の結果▽死亡または死産の原因▽臨床の経過の医学的な分析および評価▽その他必要な事項―を記載。調査結果について管理者や遺族の意見が異なる場合は、その内容を添付する。

■「標準的な医療」など残る

 
医療系の団体などから問題が指摘されている、捜査機関へ通知する事例の基準として第三次試案が示していた「重大な過失」(重過失)の文言は消えたものの、重過失の定義の中にあった「標準的な医療」などの表現は残ったままだ。通知するケースとして、▽故意による死亡または死産の疑いがある▽標準的な医療から著しく逸脱した医療に起因する死亡または死産の疑いがある▽事故事実を隠ぺいするために関係物件を隠滅・偽造・変造した疑いがあるか、同一または類似の医療事故を相当の注意を著しく怠り繰り返し発生させた疑いがあることや、それに準ずべき重大な非行の疑いがある−を挙げ、これに当てはまると地方の医療安全調が判断した場合は、医療機関や助産所の管轄の警察に通知することを義務付けている。

■届け出は管理者から中央の医療安全調へ

 
医療死亡事故の発生から調査開始までは、医師から報告を受けた医療機関や助産所の管理者が厚労相に届け出て、厚労相から地方の医療安全調に通知され、調査が始まるという流れになる。医療法の一部を改正し、医療死亡事故の際、医師や歯科医師が死亡について診断するか、医師が死体か妊娠4か月以上の死産児(助産師は妊娠4か月以上の死産児)を検案し、「行った医療に起因し、または起因すると疑われる死亡または死産であって、行った医療に誤りがあるものか、予期できないもの」と判断した場合は、24時間以内に医療機関や助産所の管理者に報告しなければならないとした。報告を受けた管理者も、医師や歯科医師、助産師やそのほかの関係者と協議の上、同様に判断した場合は、厚労相に届けることを義務付けている。判断の基準については、厚労相が定めて公表するとした。

■医師法21条改正を明記

 医師法21条の改正も明記。医療安全調に事故の「報告や届け出をした場合はこの限りではない」との表現で、警察への届け出を不要とするよう改める。同様に死産児の届け出について義務付けている保健師助産師看護師法41条も改正する。


更新:2008/05/22 02:39     キャリアブレイン

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08/01/25配信

高次脳機能障害に向き合う 医師・ノンフィクションライター山田規畝子

医師の山田規畝子さんは、脳卒中に伴う高次脳機能障害により外科医としての道を絶たれました。しかし医師として[自分にしかできない仕事]も見えてきたようです。