(聞き手は日経ビジネス記者 鷺森 弘)
問 ケンウッドとの経営統合交渉における焦点は何だったのか。
日本ビクターの佐藤国彦社長
答 「日本ビクターとケンウッドは事業内容や歩んできた歴史は異なるが、直近10年間は業績低迷から脱するためにリストラを進めるなど同じ境遇にあったと思う。だから、最初に経営統合ありきではなく、どのように事業構造改革をすれば経営統合によって強くなれるかが交渉のポイントだった。両社の歴史、人材や技術などの経営資源を大切にするという考え方でも議論を進めた」
「このままビクター単独で構造改革を進めて、2010年以降もバラ色の状況になっているのか。やはり次の成長のステップを考えないといけないという思いが私にはあった。そう考えていた時、ケンウッドとの話が出てきた。ケンウッドの河原春郎会長は事業会社としてのビクターの事情をよく聞いてくれた。非常に論理的で、社内外に対する説得力はすごい。だからこそ経営統合も実現したと思う」
問 小(ケンウッド)が大(ビクター)をのむ統合だと指摘する人もいるが、社員の受け止め方はどうか。
答 「会社が良くなるのであれば、規模の大小は関係ない。ビクターの技術者は、自分の思いを技術に託して製品を生み出す力が強く、自己実現がうまい。技術者が流出するのではないかと心配する人もいるが、必要な人材は全員残ってくれている。当社はもともと、離職率の低い会社だから」
問 経営統合を実現するためには、国内テレビ事業の大幅縮小は不可欠だったのか。
答 「経営統合に向けて、健全な体質になるためには必要な決断だった。これまでも構造改革を進めてきたが、十分ではなかった。2008年3月期の国内テレビ事業の売上高は全社売上高の5%で、テレビ事業全体の25%に過ぎないが、赤字額はテレビ事業全体の赤字額の43%にも達した。これは想定以上の悪化で、思い切った決断が必要だった。このままでは、カーエレクトロニクスやカムコーダーの利益が帳消しになってしまうからだ」
「昨年12月ごろから危機感は一気に高まった。液晶パネルの調達コストが下がらない一方で、製品価格の下げ圧力は強い。今年は液晶パネルの需給バランスが良くなるという人がいるが、そんなことを期待しているようでは事業は続けられない」
「一方、足元の欧米やアジアのテレビ事業は好調だ。欧州では超薄型の液晶テレビ、米国では「iPod」を接続して動画を再生できる製品を投入しており、4〜5月は計画以上の売れ行きになった。ただ、デジタル時代は競合企業の開発スピードが速いので、今年秋ごろが本当の勝負になるだろう」