隠岐病院(隠岐の島町、武田博士院長)で7月以降の精神科常勤医師の確保ができず精神科病棟が一時閉鎖の危機に陥っている問題で、県内では病棟維持に向けた関係者間での調整が続いている。現在も常勤医確保のめどは立っていないが、病棟閉鎖の危機を契機に浮き彫りとなった離島の精神医療の課題に対し、関係者間での体制の見直しが始まっている。【細川貴代】
これまでに、県内の精神科医有志で作る「県精神科医懇話会」が病棟維持に向けた応援体制の構築に協力する意志を表明、県と協力して応援医師派遣体制の構築に着手する。また、地域で患者を支える体制が不十分との課題も浮上し、隠岐保健所など病院以外の関係機関が連携して患者を支える仕組み作りも始めた。
17日、出雲市下古志町の「県立こころの医療センター」で県精神科医懇話会の会合が開かれ、隠岐での精神科医療を維持するために、会員有志で緊急的な応援体制を組むことを確認しあった。
懇話会は勤務医、開業医など県内の精神科医有志111人で作る組織。応援体制を効率的に構築する前提として「万が一の医療事故に対して県が責任を持つこと」「本土からの応援で生じる欠員補充の対応を明示すること」などの提案を、県に行った。
懇話会と連携した支援体制の構築は病棟維持への大きなかぎを握る。県健康福祉部の山根成二部長は「県も病棟は何とか維持する方針。提案を受け止め早急に対応を検討したい」と、連携に向け詰めの協議に入っている。
一方、隠岐の島町では地域で患者を支えるシステムの構築も始まった。今回の常勤医不在問題を機に、島後では病院、町、保健所など精神保健を担う関係機関同士が互いの役割や活動を把握できていない現状が明らかに。今後は保健所が事務局となり、病院、町や関係機関と構成する「精神保健福祉連絡会議」を月1回開き、関係機関の連携強化と患者の地域生活支援を行うことを決めた。
隠岐保健所の村下伯所長は「地域は医師に頼りきりだった。隠岐で医師にがんばってもらうには地域支援体制は必要。今回はピンチをチャンスに変える重要な時期で、これを契機に関係者が互いに顔の見える関係を作りたい」と話す。
隠岐病院では近年、慢性的な医師不足が続き、大学や県立病院から「緊急的対応」と銘打って医師が派遣される事態が続いていた。懇話会も県への提言書で「交代で派遣される医師でなく、なぜ常勤医を得られなかったかの検討が十分にされていない」「医療人事を合理的に運営する主体がない」「常勤医確保ができても、医師が休みをとれるような『応援体制』が必要」などと、これまでの医師の派遣・支援体制の問題点を指摘している。
県立こころの医療センターの竹下久由院長は「医師の派遣はこれまで緊急措置的に行われ、長期的な展望に立った派遣ではなかった。医師の倫理観や良心でたまたま派遣することができていたということ。知恵を出し合い、医師が本当に安定・継続的に地域で勤務するシステムを作ることが必要」と話している。
毎日新聞 2008年5月22日 地方版