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【新世界事情】

おいしさ いろいろ お弁当

2008年5月21日

 天気のよい日に戸外で弁当を広げると、食が進みますね。外国でも、行楽や旅行に出かけるとき、祝祭用の特別メニューから子供向けのファストフードまで、さまざまな弁当が食欲を誘います。

のり巻き弁当やプルコギ弁当が人気を集めるソウル龍山駅の弁当専門店

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韓国 においが恥ずかしい?

 韓国の高速鉄道KTXや特急セマウル号、ムグンファ号が発着するソウル龍山駅。五月の連休明けの夕方、初老の夫婦がホーム中央の弁当専門店で、三千五百ウォン(約三百六十円)のキムパプ(のり巻き)弁当を買って列車に乗り込んだ。「夫の手術後の通院に付き添ってソウルに来た」という妻。自宅がある韓国南西部の全羅南道・求礼駅まで約四時間の旅で、キムパプは「気軽にすぐ食べられる便利な間食」だ。

 弁当専門店はプルコギ(甘辛味の焼き肉)、ナクチ(タコの辛味あえ)など数種類の弁当をそろえる。主要駅に売店を展開する給食会社「ランチベル」によると、プルコギ弁当が最も人気が高く、売り上げ全体の七−八割を占めるという。

 だが、同社の楊成鎬(ヤンソンホ)部長(40)は「韓国で弁当はなかなか売れない」と嘆く。乗車時間がKTXでも最長約三時間半と短いうえ、食べ物のにおいが他の乗客の迷惑になって恥ずかしい−などが理由という。「キムパプも安ければ千ウォンで持ち込める。一万ウォン近い弁当は買わない」と話す。

 同社はいま、「日本のような名物弁当を」と模索。地域色のある総菜や容器を研究し、新弁当を開発中だ。楊部長は「日本のように包装にも気を使います」と高級路線をにおわせた。 (ソウル・築山英司、写真も)

福隆駅に止まった列車の乗降口から慌ただしく駅弁を購入する乗客=台北県内で

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台湾 日本由来の『ベントン』

 「小吃」と呼ばれる軽食の店が至るところにある台湾では、行楽に手作り弁当を持参する日本のような習慣はあまりないと、当地の人は言う。だが、鉄道の旅では、日本統治時代に由来する駅弁が健在だ。

 台湾の北東角に位置する福隆駅。列車がホームに滑り込むと、売り子の女性たちが車両に寄ってくる。台湾語で繰り返す「ベントン」は、原語の「べんとう」のように響く。

 デッキで待つ乗客の差し出す代金と、かごから取り出した駅弁をさっと交換する。一、二分の停車時間のうちに、車両をいくつも駆け足で移動する。四人の売り子で平日は一日六百個程度、休日は約千個を売るという。

 紙製容器のふたには「月台便當」とある。「月台」はプラットホームの意味だ。白いご飯を敷き詰めた上に、煮卵や豚の角煮、ソーセージ、キャベツなど九種類のおかずが並び、二百円弱相当だ。

 在来線を運営する台湾鉄路管理局(台鉄)によると、ホームに売り子を置く駅弁販売方式は現在、福隆、瑞芳(台北県)礁渓(宜蘭県)関山(台東県)の四駅で業者が入札して商っている。原材料費の値上がりなどで苦しいが、業者で元台鉄マンの曽阿発さん(60)は「でも、楽しみにしてくれている人が多いですからね」と笑った。 (台北・野崎雅敏、写真も)

子どもたちに大人気のパンダの写真付きランチボックス=ワシントン市内の国立動物園で

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米国 ファストフード人気

 働く女性が増え、家事をできるだけ簡単に済ませようとすることが多い米国。行楽地でも、自家製弁当ではなく、レストランやファストフード店で売られるホットドッグやハンバーガーが昼食の主役になっている。

 首都ワシントンの市民らに人気の行楽地である国立動物園では、昼を過ぎるとA5判程度の大きさのプラスチック製手提げ箱を持つ子どもが目立つ。同園の人気軽食セット「ジュニア・ズー・キーパー」の入れ物だ。

 セットは、箱の中にホットドッグかハンバーガー、フライドポテト、デザートのアップルソース(リンゴをゼリー状にしたもの)が入り、飲み物付きで六・九五ドル(約七百二十円)。市内のファストフードの子ども向けセットよりも割高だが、手提げ箱には人気者のパンダ親子の写真が張られ、容器の色も赤、青、黄、紫と四種類あって子どもたちを魅了。平日でも一日百個以上が売れる。四月まではパンダの顔をかたどった箱で販売し若い女性にも大人気だった。

 五月中旬、園内のテーブルで一緒に昼食をとっていた市内の二家族は、手提げ箱が新しくなってから初めて来園、四人の子ども全員が新しいセットを買った。最年長のネイサンくん(7つ)は「この箱、すごくいいよね。ぼく、パンダが大好きなんだ」と、青い箱を何度もながめていた。(ワシントン・古川雅和、写真も)

春の祝日「シャム・エル・ネシーム」にカイロ近郊の公園に来ていたサイードさん(右端)の家族。薫製ニシン(手前の鍋)と卵、ネギをじゅうたんに広げ「緑の中で食べるとおいしい」=エジプト・ギザで

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エジプト 伝統料理 塩漬けボラ

 キリスト教の一派、コプト教のイースター(復活祭)翌日に設けられる春の祝日「シャム・エル・ネシーム」(アラビア語で「風の薫りをかぐ」の意)に、エジプト人は家族で公園に出かけ特別な料理を味わう。

 「フィシーフ」と呼ばれる塩漬けの魚とゆで卵、ネギを食べるのは四千五百年前のファラオ時代からの伝統。ナイル川で捕れた魚は肥沃(ひよく)と繁栄を、卵は生命の再生を象徴し、ネギは邪気を追い払うと信じられている。

 フィシーフには通常ボラが使われるが、イワシやサバでもよい。一カ月ほど塩漬けにして発酵させるため強烈ににおうが、愛好家は多い。コプト教徒のアティヤさん(58)は「先祖も同じ方法でフィシーフをつくってきた。川魚でつくるのが最高だ」と話す。

 ところが、近年は不適切な調理方法によるボツリヌス菌中毒死が続出。今年も四月二十八日の祝日を前に、政府は新聞で国民に警告。「治療には二万エジプトポンド(約四十万円)かかります」と、フィシーフを食べないよう呼びかけた。

 今ではフィシーフの代わりに「リンガ」と呼ばれる薫製ニシンを食べる家が多い。家族九人でカイロ近郊の公園に来ていたサイードさん(29)は「リンガの方が好きだ。緑の中で食べると食欲も増すよ」と笑顔で話した。

 (カイロ・浜口武司、写真も)

 

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