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自殺男性の吐いた物から有毒ガス 54人体調不良 熊本

2008年05月22日12時21分

 21日午後10時50分ごろ、熊本市長嶺南2丁目にある熊本赤十字病院内の救命救急センターで、農薬を飲んで自殺を図って搬送された熊本県合志(こうし)市の農業男性(34)が、治療中に嘔吐(おうと)し、吐いた物から塩素系の有毒ガスが発生。医師や看護師、1〜3歳の幼児3人を含む患者ら計54人が体調不良を訴え、うち10人が処置を受けた。

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ロビーで治療を受ける患者=22日午前3時51分、熊本市長嶺南2丁目の熊本赤十字病院、井上翔太撮影

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 このうち同センターで肺炎の救急治療を受けていた女性(72)や、男性に付き添った母親(60)と妻(36)、男性の治療にあたった女性研修医ら5人は、呼吸困難などを訴え、市内の別の病院に運ばれて処置を受けた。男性はまもなく中毒死が確認された。

 同病院によると、男性が飲んだのは土を消毒するための農薬(土壌燻蒸(くんじょう)剤)で、主成分は殺虫剤などに使用されるクロロピクリン。病院の説明では、救急隊からは「男性は農薬を飲んでいる」と連絡を受けていたが、農薬名については「ピクリン」と情報が断片的で、薬物が特定できなかった。このため、医師や看護師らは防毒マスクなどを着けずに治療に臨んだという。

 男性はセンター内の診察室の奥にある、処置室に運ばれた。体内から農薬を出そうと鼻から管を差し込んで吸引を始めた際に男性が吐き、吐いた物からガスが発生したとみられる。

 当時、センターには医師や看護師ら約30人と、患者や付き添いら二十数人がいた。呼吸困難を訴えた72歳の女性は処置室に近い観察室にいた。当初閉まっていた診察室と待合室の出入り口のドアは、騒ぎで開けられ、待合室にいた外来患者にも被害が広がったという。

 センターを含む1階にいた人は救急用の入り口などに避難。病院からの通報で駆けつけた消防隊が防護服を着て嘔吐物に消毒液をかけ、処置室の窓を開けて換気。22日午前2時30分すぎに除染作業を終えたという。センターは閉鎖され、救急患者の受け入れを見合わせたが、同日正午に再開した。

 県警などによると、21日午後10時すぎ、男性の妻から「夫が薬物を飲んで倒れた」と110番通報があった。大津署員や菊池広域連合西消防署の救急隊が自宅に駆けつけると、付近は異臭がし、男性が家の外で苦しみながら「農薬を飲んだ」と話したという。男性の母親と妻が付き添い、同病院に搬送した。車内で救急隊は男性に水を飲ませ、少量の薬を吐き出させた。付き添った母親と妻は目の痛みや吐き気を訴えていたという。

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 〈クロロピクリン〉 畑の土の殺虫や消毒などに使われる薬物で、毒物及び劇物取締法で「劇物」に指定されている。気化しやすく、強い催涙性や独特の刺激臭がある。顔を近づけただけで吐き気やめまいなどの症状を引き起こし、吸い込むだけで死に至ることもある。「クロールピクリン」などの名称で販売されており、国内では48年から使われている。

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