ピアニスト
蔵島由貴さん

DVDではピアノ演奏をしてくださり、本ではそれぞれの曲へのアドバイスもしてくださった蔵島さん。
華麗な指運びはもちろんのこと、曲に対する感情の込め方や表情など、ピアノ初心者は圧倒されることばかりですが、プロの演奏をじっくり見て、聴くことができる映像には、本だけではわからないテクニックが満載です。

蔵島由貴さんプロフィール

──蔵島さんが初めてピアノと出合ったのは何歳のときですか?

蔵島 プロのピアニストの場合、3歳くらいからピアノを始めた人が多いのですが、私はけっこう遅くて7歳になってからなんです。というのも、私の両親は音楽とはまったく無縁で、幼い頃からピアノを習わせるということを思いつかなかったんですね。だから私も、幼稚園のお友だちがみんなピアノを習っていて、お教室にあるオルガンを弾いているのを見てびっくりするやらうらやましいやら(笑)。最初は、ピアニカの鍵盤で遊んだりするだけで満足していたんですが、やっぱりピアノが弾きたくて……。小学校に上がってすぐに、近所のピアノ教室に入れていただいたんです。

──実際にレッスンを受けてみてどうでした?

蔵島 すごく嬉しかったですね。レッスンに通うのはもちろん、毎日学校から帰ってピアノに触るのが楽しみで仕方ありませんでした。1年くらいたったときに先生から勧められて3つのコンクールを同時に受けたのですが、なんとすべて1位をいただいてしまったんですよ。

──それはすごいですね! 

蔵島 ありがとうございます。両親も「よかったね、がんばったね」って、私と一緒になって喜んでくれたんですけど、だからといって「この子を将来ピアニストに!」なんてことは全然思いつかなかったらしいんです。でも、いま思うとそれがすごくよかった。そんな環境だったからこそ、7歳のときからいままでずっと私にとってピアノが「楽しいこと」でいられたと思うんですよ。

──ご自身が「ピアニスト」ということを意識されたのはいつ頃でしょう?

蔵島 高校に入ってからですね。私は東京藝術大学付属音楽高等学校というところに進んだのですが、やはり同級生たちから受ける刺激は大きかったです。

──やっぱり、まわりはみんなライバルという感じですか?

蔵島 いえいえ、そんなにピリピリした雰囲気じゃありませんでしたよ(笑)。確かにみんな熱心に勉強していたけど、学校ではピアノ以外の楽しいこともたくさんありました。私が通った学校は身体作りを重視していて、スキーやテニス、水泳の合宿があったし、体育の授業ではバレーボールなんかも普通にやっていました。

──その後、大学で4年間学んで、イタリアのイモラ国際ピアノ音楽院に留学されたわけですね。

蔵島 はい、そうです。イモラでは集中してピアノと向き合うことができましたね。東京と違って、なーんにもないところでしたから(笑)。スーパーへの買い物だって、歩いて往復1時間かかりましたし。だから昨年(2007年)の秋、日本に帰ってきたら、あまりにも便利でびっくりしてしまいました。

──現在は、どんな生活を送っていらっしゃるのですか?

蔵島 何もない日は7、8時間はピアノと向き合うようにしていますね。

──えっ、毎日ですか!?

蔵島 なるべく……(笑)。もちろん、あまり気乗りがしない日もありますから。そんなときは、ピアノ曲以外のCDを聴いたり、美術館へ絵画を見に行ったりして気分転換しますね。あとは、コンサートなどでみなさんに聴いていただいたり、アルバムのレコーディングをしたり……。実は私、まだイモラ国際ピアノ音楽院に籍がありまして、今後はフォルテピアノという古い楽器を学ぶことになっているんです。でも、日本に帰ってきてしまいましたから、年に何度かイタリアに行き、まとめてレッスンすることを認めていただきました。

──そんな中で今回、初心者のみなさんに向けてのDVD演奏というお仕事を受けていただいたわけですが、いかがでしたか?

蔵島 とても楽しかったです! これまで感じたことがない緊張感を味わいました。お手本演奏は、真上から撮影したんですけど、上からの視線って経験したことがなかったので、すごく新鮮でした。演奏そのものは、わかりやすいこと、正しいことを心がけました。私の演奏を見て練習していただくわけですから、責任重大ですものね。

──DVDで弾いていただいた2曲については?

蔵島 ピアノソナタ「悲愴」第2楽章は、初心者の方も弾けるようにアレンジがされているものでしたから、音が少なくても素敵な演奏になることを第一に考えました。ピアノを弾くときに最も大切なのは「想い」なんです。「想い」を込めて弾けば、少ない音でもじゅうぶん素晴らしい曲になりますよ。

──「エリーゼのために」は誰もが知っている超有名曲ですよね。

 蔵島 そうなんですけど、よく考えてみるとプロの演奏を聴く機会がこれまであまりない曲でもありますよね。改めて「いい曲だなぁ」と思いました。さりげなくて、かわいらしくて、でも弾き手の個性がすごく出る曲。さすがベートーヴェンだな、と思いましたね。今後、機会があったら私もコンサートのアンコールなどで弾いてみたいです。

 ──これからピアノと出合う方に、メッセージをお願いいたします。

 蔵島 この本をきっかけに、ずっとピアノと仲良くしてほしいですね。ピアノを弾くことを、心から楽しんでほしい。私は7歳のときにピアノに出合ってから、ずっとピアノが大好きです。この気持ちを、ぜひみなさんにも感じてほしいと思います。そして、楽しさを感じたら手の形や、姿勢などを意識して弾くようにすると、上達が早いと思いますよ。