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社説:馬英九総統 中台は互恵不武で対話を

 台湾の新しい総統に国民党の馬英九氏が就任した。

 陳水扁前総統は、最後まで台湾独立へ執念を燃やし、総統選挙と同時に独立問題にかかわる住民投票を実施した。だが投票率が低く住民投票は成立しなかった。台湾の民意は、独立か統一かについて、判断を回避したということになる。現状維持と単純には言えない微妙な意思表示だった。

 馬政権の最大の政治課題は、この民意を踏まえて、前政権の8年間に断絶していた中国との関係を、どのように、どこまで改善するかである。

 中国は台湾という国家の存在を認めない。中国の言う「統一」とは、最終的には中華人民共和国に台湾を併合することだ。

 馬総統は就任演説で「統一せず、独立せず、武力行使せず」の「三つのノー」の持論を繰り返した。中国への併合を拒むという意味では現状維持である。だが、中国との交流の拡大という現状変更も、同時に実現するという。

 陳前総統の時代、中国は驚異的な経済成長を達成した。民進党政権のもとで中国市場への参入を規制された台湾資本はバスに乗り遅れるとあせった。中台直行の航空路線開設や対中投資規制の緩和などが馬政権に期待されている。

 しかし中国には中国の立場がある。馬総統の「統一せず」を受け入れることは難しいことだろう。

 中国は「台頭する中国」を自任し統一実現に自信をつけてきた。とくに江沢民前国家主席の時代には、台湾へ向けたミサイルを背景にして統一のロードマップ作りを志向して反国家分裂法を制定した。

 胡錦濤主席になって共産党と国民党との「国共会談」が再開され、対話路線への傾斜が強まった。独立派と対抗する馬政権の登場を、中国は歓迎している。だが、現状維持が続くならいずれ蜜月は終わる。その前に馬総統は安定した中台の対話の枠組みを作らなければならない。

 李登輝元総統の時代には海峡交流基金会など民間の窓口だけだった。いまは国共両政党の対話はある。だが、本質的には軍隊がにらみ合う台湾海峡で平和を保つための対話が必要なのだ。それなのに胡主席は馬総統と直接会談をしない。中華民国総統の存在を認めたら「一つの中国」の原則から外れるからだ。

 いっそ敵国同士なら第三国の仲介で首脳会談が可能なのに、「同胞」の中台トップが直接会って信頼感を醸成することができないというのは、やはりおかしい。

 「三つのノー」で最も重要なのは「武力行使をしない」すなわち「不武」である。統一か独立かの前に、「互恵」と「不武」の二つの原則で胡主席と馬総統がお互いに非公式訪問したらどうか。形式論理を捨て発想の転換をすべきだ。

毎日新聞 2008年5月22日 東京朝刊

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