一連の不祥事を受けて設置された福田康夫首相直属の「防衛省改革会議」に、防衛省が21日、組織改革案を提出した。
防衛省・自衛隊を「政策企画立案・発信」「運用」「整備」の三つの部門に集約し、それぞれ内局の文官(背広組)と統合幕僚監部・陸海空各幕僚監部の武官(制服組)が混合した組織に編成替えするのが目玉だ。また、武官に対して文官が優位に立つ「文官優位」の象徴である防衛参事官制度を廃止し、防衛相が選任する政治任用の「防衛相補佐官」新設も盛り込まれた。
これらの組織改革は、防衛省・自衛隊の機能強化を念頭に置いたものと考えられる。しかし、不祥事への処方せんになっているだろうか。大いに疑問である。
防衛省改革は、インド洋で米軍に提供された油の「転用疑惑」とデータ隠ぺい、イージス艦情報の流出、前防衛事務次官の収賄事件、イージス艦「あたご」の漁船衝突事故--の四つの不祥事を受けて議論が進められた。省案は、内局と各幕僚監部がそれぞれ防衛相を補佐する「二重構造」になっていることが不祥事の背景にあり、このため、権限・責任が不明確で、効率的業務が困難になっているなどと指摘している。
確かに「あたご」の事故では、防衛相や首相への事故発生の連絡の大幅遅れが問題になった。組織の改革はこの点については有効かもしれない。しかし、国民が強い批判の目を向けたのは、汚職事件を引き起こした文官トップのあり方であり、漁船衝突事故の当事者である海上自衛隊の規律問題ではなかっただろうか。背広・制服の混合がこれら一連の不祥事の対策になるとは到底思えない。
混合組織は、省内で改革論議を主導した石破茂防衛相の強い主張だった。「使い勝手がよい組織を作りたい」という石破防衛相の思いが前面に出た改革案と見てよさそうだ。不祥事への抜本策を期待した国民と、省の意識にずれがあると言わざるを得ない。
また、防衛参事官制度の廃止は混合組織と並んで省の大改革となる。これも石破防衛相の年来の主張である。「文民統制(シビリアンコントロール)」が本来、国会議員による「政治統制」であることは間違いない。しかし、日本では「文官優位」制度が「政治統制」を支える“杖(つえ)”となってきたことも事実だ。文官優位を廃止すれば、防衛相補佐官を選ぶ立場に立つ政治家には、文民統制に対する今まで以上の深い理解と能力が求められることになろう。
省案は、組織改革の具体化について複数の案を列記している。「生煮え」と受け止める向きもある。一方、国会には、不祥事対策は組織替えでなく運用で対応すべきだとの意見も根強い。改革会議には国民の目線で議論してもらいたい。
毎日新聞 2008年5月22日 東京朝刊