現在位置:asahi.com>社説

社説天声人語

社説

2008年05月22日(木曜日)付

アサヒ・コム プレミアムなら社説が最大3か月分
アサヒ・コム プレミアムなら朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しく)

宇宙基本法―軍事には明確な原則を

 衆参両院合わせて、国会での実質的な審議はたった4時間。日本が宇宙を軍事利用することに堂々と道を開く宇宙基本法が成立した。

 宇宙利用については、平和目的に限るとした69年の国会決議に基づき、「非軍事」が原則だった。だが、基本法は「我が国の安全保障に資する」と付け加えることで、軍事目的にも使っていく方向へ転換させた。

 すでに自衛隊は、事実上の偵察衛星である多目的の情報収集衛星を利用してきた。今後は、偵察衛星を持ち、ミサイル発射を監視する早期警戒衛星の保有の道も法的には開ける。

 たしかに宇宙技術は40年前とは様変わりだ。だからといって、大原則の変更なのに議論が尽くされなかったのは極めて遺憾だ。与党と民主党が政策合意を目指すのはいいが、広く国民的な議論を巻き起こす努力もせぬまま、数さえ整えば採決してしまうというのは乱暴ではないか。

 基本法の運用にはいくつもの課題と懸念がある。

 第1条に「憲法の平和主義の理念を踏まえて」とうたっているものの、では何をすることが日本の安全保障に資するのか否かがはっきりしない。

 ならば、今後の関連法案づくりなどの機会や審議を通じて、以下のような原則を明確にせねばならない。

 攻撃兵器を宇宙に配備するのは専守防衛の憲法原則に反する。衛星を攻撃したり、衛星から地上を攻撃したりといったことは論外である。さらに、国際的な緊張を高めたり、軍拡を誘発したりすることがあってはならない。

 たとえば、日本を敵視し、国際ルールを無視して核兵器を開発する北朝鮮の動向を探るためなら、今の情報収集衛星より性能の高いものを持つことに国民の理解は得られるかもしれない。

 だが、中国やロシアを想定した将来のミサイル防衛構想に日本の衛星が組み込まれるとなれば、話は違う。東アジアや世界の緊張を高め、軍拡競争の引き金になりかねない。こうした役割を日本が担っていいはずがない。

 イランの脅威などを理由に欧州にミサイル防衛網を配備しようという米国の計画が、ロシアの激しい反発を呼んでいることにも学ぶべきだろう。

 もっとも大事なのは、現実感覚を失わないことだ。高い偵察能力は抑止力だという理屈もあろうが、早期警戒衛星のような巨費を要するシステムを持つ必要があるとはとても思えない。米国との賢明な役割分担という視点からも考えるべきだ。

 また、安全保障の名の下に透明性が曇っては、日本の宇宙開発全体がゆがんでしまうことにもなりかねない。

 国会は、具体的な利用方法をめぐって妥当性をきちんと吟味し、原則を確立していく責任がある。

成田空港30年―羽田との一体運用でこそ

 日本の「空の玄関」成田空港が開港30年を迎えた。いまや年間の旅客が3500万人にのぼり、国際旅客数では世界6位、国際貨物量で3位だ。

 だが、今後は次々と追い抜かれそうになってきた。ここ数年の間に韓国や中国、シンガポールのライバル空港が、着々と能力を増強しているからだ。グローバル化とアジア経済の急成長で航空需要が膨らみ、空港の競争が激しさを増している。30年前とは様変わりだ。

 激しい反対運動が続いた成田は、長らく滑走路を1本しか持てなかった。発着枠が少ないのが悩みだ。02年にできた2本目の滑走路を10年には延伸して枠を増やすが、それでもアジアのライバル空港に及ばない。

 世界では24時間運用が常識なのに、成田は騒音対策のため夜11時から朝6時まで発着できないハンディがある。2年後には空港と東京・日暮里を最短36分で結ぶ高速鉄道もできるが、都心から遠いのは否めない。

 いま、世界では航空ネットワークづくりが急ピッチで進む。各国間で相次いで航空自由化協定が結ばれ、路線や便数が急増している。3月には米国と欧州連合との協定も発効した。

 成田にはいま40カ国1地域から乗り入れ希望があるが、枠がなくて受け入れられない。だから日本は本格的な自由化協定を結べない。このままでは、世界のネットワークづくりから取り残されかねない。

 そこで、羽田を国際空港としてフル活用するよう改めて提案したい。羽田はいまでも国内を含めた旅客数で世界4位の実力がある。国内便が大半だが、全国に新幹線網が延びた現在では国内航空網の役割が変わった。

 国土交通省は「国際は成田、国内は羽田」を原則とし、国内で最も遠い石垣島(1947キロ)の距離内、例えばソウルや上海までしか羽田には国際便を認めてこなかった。冬柴国交相がやっと、この規制を見直す方針を明らかにした。羽田に4本目の滑走路ができて発着枠に余裕が生まれる10年をにらんでのことだ。

 海外から投資を呼び込み、多くの人やモノが往来する国にする。そのためには空の玄関の競争力がぜひとも必要だ。北京や台北、さらにはインドのムンバイなど、成長著しいアジアの主要都市へ路線を広げていってほしい。

 羽田は都心に近い。国際旅客数で世界一のロンドン・ヒースロー空港にも匹敵する好条件だ。やり方しだいで北京や上海へ日帰り出張も可能になる。そういう試みが東アジア経済圏の形成に向けてエンジンになるはずだ。

 成田と羽田を総合して効果を高めるため、空港の運営会社を一本化するのも一案だろう。国際競争力を強めるよう、あらゆる選択肢を検討したい。

PR情報

このページのトップに戻る