最終的に278億円にも達する見込みとなった損害保険大手6社の保険料取り過ぎ問題。保険金不払いに続き営業優先で契約者を軽視してきた業界のずさんな体質が改めて浮き彫りとなった。6社は21日、08年3月期決算も発表したが、不祥事の後始末に追われ、業績は振るわなかった。【辻本貴洋、斉藤望、大場伸也】
「保険がここまで複雑になると、損保会社すら内容を分かっていないのではないか」。千葉県内で30年近く損保代理店を営む男性は取り過ぎ問題が発覚する前から保険商品に危うさを感じていた。その予感は当たった。代理店や損保社員の商品理解が追いつかず、説明不足の末、保険料割引の適用漏れが続出した。この代理店も地震保険で数件の取り過ぎが起きた。
損害保険が複雑化したのは、90年代後半の保険自由化から。自動車などの保険料率は各社が独自に設定できるようになり、格安保険料を売り物にした外資系など新興勢力が台頭した。危機感を募らせた既存の大手損保は、対抗措置として保険料割引の特約を大幅に増やした。
火災保険では建築工法や素材、自動車保険は通勤、レジャーなどの用途や環境対策車にそれぞれ保険料割引が細かく設定された。ただ、契約者が請求しない限り、割引は適用されない仕組みだった。
次々と新たな特約が加わり、営業現場は保険商品の知識が伴わないまま販売を推進した。契約者に複雑な内容を十分に説明せず、営業を先行させた結果、保険料割引の請求をしなかった契約者からの取り過ぎが発生した。
この構図は、損保や生保の保険金不払いと同じだ。「請求主義」にあぐらをかいた業界体質が露呈し、不信感を増幅させた。損保各社は「信頼回復に全力を尽くす」(損保ジャパンの大岩武史常務)と強調するが、夏にも発表する最終報告に、契約者が納得する対策を盛り込めるかどうかが問われる。
取り過ぎ問題を受けて、損保各社は保険内容簡素化などの対策を進めている。東京海上日動火災保険は約1700もあった特約を08年度末までにほぼ半減させる。また、「社員や販売代理店に(商品知識の)教育を徹底させる」(東京海上の本田大作専務)と研修などを強化している。契約時の商品内容の説明も充実させる方針だ。
ただ、保険料割引は契約者の請求に基づく点は変わらない。専門家は「取られ過ぎを防ぐには、契約者が保険内容を確認する自衛も必要」と指摘する。
具体的には、契約者が保険証書を自宅の建築確認書や運転免許証などと照らし合わせ、保険料割引が適用されるかをチェックする必要がある。
ファイナンシャルプランナーの古鉄(こてつ)恵美子氏は「保険は知らないと損をしてしまう。契約前に複数の会社で保険料を見積もり、納得してから契約することが重要」とアドバイスする。
損保大手6社が21日発表した08年3月期連結決算は4社が最終(当期)損益で減益に陥った。主力の自動車保険などの低迷が続いたことに加え、保険料の取り過ぎ問題への対応で、調査人員の動員やシステム更新に1社あたり数十億円規模の費用がかかり、収益を圧迫した。取り過ぎた保険料の返還も減益要因となった。
米低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライムローン)関連の損失(モノラインなどでの損失も含む)も響いた。あいおい損害保険は949億円の損失を計上し、31億円の最終赤字に転落した。ミレアホールディングスや損保ジャパンでも損失は200億~300億円規模に上り、ニッセイ同和をのぞく5社合計の損失額は1835億円に達した。
主力の自動車保険と火災保険は、国内の新車販売の低迷や住宅市場の不振が響いた。
国内での損害保険の売上高が大半の正味収入保険料(単独決算ベース)は、あいおい損保をのぞく5社が減収となった。海外や生保子会社を含めた売上高を示す経常収益(連結決算ベース)はミレアなど3社が減収だった。
毎日新聞 2008年5月21日 23時02分