日本人は、鷹揚なのか、それとも不感症なのか、あるいは無知なのか、莫大な借金をかかえながら、だれもほとんど悩んでいない。肩をすぼめて悩んでいるフリをしている人たちは、永田町や霞が関にいないわけではないが、近寄ってよくみれば、政治家も、官僚も、その多くは平気の平左という顔つきである。真剣に頭をかかえて対策を練っているのは、ほんの十数人といったところではあるまいか。
いったい、日本の台所事情は、どうなっているのか。はたして国民は、どこまで実態を承知しているのであろうか。先日、前官房長官の与謝野馨さんが、日本記者クラブで講演した際、この点について、じつにわかりやすい話をしてくれたので紹介してみたい。
与謝野さんによれば、日本の台所事情は、収入が50兆円で、支出は80兆円だという(正確にいえば、国の税収(一般会計)は2007年度で51兆~52兆円になる見込み。ただ、話をわかりやすくするため、以下も与謝野さんがあげた、おおざっぱな数字でいきたい)。
「ん? 収入80兆円、支出50兆円のまちがいじゃございませんか」という疑問の声があるかもしれないが、残念ながら毎年、マイナス予算である。一般家庭で、「収入50万円、支出80万円」といった家計が、何年も続くなど想像もできないけれど、日本はずっと、借金の証文(国債)を売ってお金をつくってきた。この国債の利息は、いずれだれかが払わなければいけない。これから生まれてくる子らもまた、その負担を背負い込むことになるのだ。
与謝野さんは、支出80兆円の使い道について、明解に説明してくれた。これをきいて、民主党のいう、ムダをはぶいて財源を捻出するという手法のムリをあらためて認識せざるを得なかった。
80兆円を4つにわけて、その使い道を考える。まず最初の20兆円は、借金の利息。「借金とりがくるから、どうしても払わなければならない」。いまは、低金利だから、まだこれだけで済むが、金利があがれば、20兆円など軽く突破してしまうのだ。
つぎの20兆円は、地方へ渡すお金。地方は、「いまでも、渡す金がすくないと叱られるわけですから、これはへらすわけにはいかない」。これも油断すれば、すぐ20兆円を超えてしまう。
そのつぎの20兆円は、社会保障費。これも、あっというまにふえていく。「これは、20兆円にとどめておくこと自体が、相当にたいへんなお金です」。
これらの合計60兆円は、いずれも出ていく先が決まっているお金。「あと、残りの20兆円で、公共事業をやり、教育をやり、大学運営をやり、科学技術をやり、自衛隊、公務員の給料も払うわけです。民主党では、ムダがあるのではないか、という。もちろん、ムダはきちんと排除しなければいけない。それは当たり前のことですね。しかしまあ、15兆円も16兆円も出てくる話ではない」と、与謝野さん。自民党内にある、例の埋蔵金の話も、一笑にふした。
〔フォトタイム〕
数寄屋橋交差点その3
交差点の一角に建つ数寄屋橋交番は、とんがり屋根のなかなかしゃれた建物です。
by 大島信三
日本の台所事情と与謝野馨氏の…