“外交弱小国”日本の安全保障を考える

核関連の人的要員への被害の可能性

 ニューヨーク・タイムズのこの報道は、核施設への被害については、米国側の官民いずれの専門家たちとも、「現在のところ注意すべき損害は探知されていない」と述べていることを伝えた。この種の軍事用の核関連施設はそもそも有事には敵のミサイル攻撃などを受ける可能性までを想定しているから、外部からの衝撃に耐えるための最大限の防御策がとられており、地震ならいかに激しくてもまず破壊されることはない、という見解も記されていた。

 しかしその一方、気になる別の報道もあった。

 AP通信の5月16日のパリ発の報道によると、フランスの政府機関「放射能防御核安全研究所」のティエリー・チャールズ部長が「四川省内のいま解体中の核施設が地震によって小規模の被害を受けた」と発表したというのだ。ただし「いまのところ放射能漏れはないようだ」と付記していた。フランスのこの研究所も四川省内には震源地から150キロ以内に、少なくとも「実験用原子炉1基、核燃料製造施設2カ所、核兵器施設2カ所」が存在する、という情報をも明らかにしていた。四川省はやはり核兵器関連施設の主要根拠地ということだろう。その至近の場所で大地震が起きたのだから、まだまだ警戒をゆるめることはできないのだろう。

 こうした情報を総合する形で前述のワシントンの「国際評価戦略センター」のリチャード・フィッシャー副所長も、ごく慎重なアプローチを提案するとともに、もうひとつの重要な可能性を指摘した。

 「中国の核兵器関連施設というのはそれ自体、すべてが極秘にされる存在だから、それに対する地震の被害の有無というようなことは、重大機密扱いとなる。米国側のその実態を探知しようとする試みも、そのこと自体が機密となる。だから真相は簡単にはわからないのだといえる。表面に出た情報だけでの即断は禁物だろう。それよりも私が推測するのは中国の核兵器の開発や製造にかかわる科学者、技術者などが大地震によって被害を受けたのではないかという可能性だ。つまり核関連の人的要員への被害の可能性だ」

 真相はまだまだわからないというのが適切な総括だろうか。

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