2008年03月14日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)
~「卯」を食べる~
兎美味し彼の山
飽食の時代、日本ではウサギというとペットを想起するようで、「ウサギを食べる」というと眉をひそめる反応すら出現しているが、本来ウサギは食用である。私も幼児の頃に、母方の祖父の家を訪れた際、飼育していたウサギを食べ尽くしたことがある。
アナウサギ | ノウサギ |
これらは飼い兎、動物学的にはアナウサギだが、野生の兎たるノウサギも、別種ながら食用としている。唱歌『ふるさと』の「兎追いし彼の山、小鮒釣りし彼の川・・・」とあるのは、子供なりの食料確保の手伝いの情景であって、兎を追いかけて単に遊んでいるのではない。動物性蛋白質の不足がちな、かつての農山村ではふつうの光景であった。
実際、学校をあげての兎狩りの行事もあった。勢子を使って山狩りをし、兎を捕る。勢子は多いほうが広い範囲を覆えて効果的だから、全校児童が参加して兎を追う。捕獲した兎を業者に売って得た「兎基金」で学校備品が調達されたりしていた。農林業に被害のあるノウサギを駆除し、自然に親しみ、協力作業を教え、教育資金も得られる、すばらしいイベントがあったのだ。
杉や桧の植林、山地開発の進行等によって山に棲む獣の数は減少し、ノウサギも減り、学童の数も減った。社会の変化に伴ってこういう風習は失われてしまった。
とぶから1羽
たいがいの獣、つまり哺乳類は1頭、2頭と数える(小型獣は匹でも数えるが、学術的には「頭」の使用が多い)が、ウサギは1羽、2羽と数える。獣肉を禁ずる仏教戒が広まっていったとき、ウサギは跳ねる=「とぶ」から鳥であるとして、食用を可とするために、鳥の数え方を流用したとされる。そうだとしても、まずはウサギが古来からのよく使われていた食材であることが前提で、食習慣が保持できる方向へ解釈されたのだろう。ウサギは身近にいて、捕獲も容易であった(何せ子供でも捕らえられる)ことも、食習慣を支えたであろう。狩猟漁撈採食をしていた頃の日本人、縄文人の遺跡からも、ウサギの骨は全国で出土していて数も多い。
将軍も宮中も
近世の日本人は肉食をしなかったの如く思われているが、原始以来の肉食習慣は綿々と続いていた。特に食資源としての山の幸が重要な山村では。また、武家では軍事訓練を兼ねて狩猟、山狩りは伝統として続けられていた。
最終回 | ~「申」を食べる ~ 脳までも食べなさる (2008年03月28日) |
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第11回 | ~「卯」を食べる~ 兎美味し彼の山 (2008年03月14日) |
第10回 | ~「戌」を食べる~ 羊頭ホットドッグ (2008年02月29日) |
第9回 | ~「寅」を食べる~ 食う虎 食わぬ虎 (2008年02月15日) |
第8回 | ~「辰」を食べる~ 竜はおいしく食べられる (2008年02月05日) |
第7回 | ~「酉」を食べる~ ニワトリは、時計とギャンブル (2008年01月18日) |
第6回 | ~「丑」を食べる~ ウシはコーカソイドと共に (2007年12月26日) |
第5回 | ~「未」を食べる~ 大いなる羊は美しいが (2007年12月12日) |
第4回 | ~「巳」を食べる~ 天高く蛇肥ゆる秋 (2007年11月28日) |
第3回 | ~「子」を食べる~ ネズミ食うべし (2007年11月14日) |
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千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)
1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。
動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。