千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2008年02月05日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「辰」を食べる~
竜はおいしく食べられる

 あだしごとはさておき(どこが本筋かわからない文章であるにせよ)、このコモドオオトカゲは食べられない。

 同じ地域に住むインドネシア人たちが、「オラ」(ヒト)と呼び、同胞とみなしているかららしい(共通インドネシア語では「コモド」と呼ばれる)。コモドのほうは逆に、まれに人間を食うとされる。シカぐらいの大型獣は平然と食う。病気などで弱って動きが異常な個体を襲うので、「オラの眼前で転ぶと危険」と地元のレンジャーに注意された。コモドの通常の食性にヒトは入っていないが、咬まれて怪我をする人はいるし、死体は、機会があれば食べられてしまうだろう。

 あるいは、コモドが食べられないのは、同属でかなり近いサイズになるミズオオトカゲを食べないある民族が、その根拠を「人肉食」としているのと同様なのかもしれない。

味はムロアジ

 コモドと同属のオオトカゲはアフリカ、オーストラリア、アジアに分布し、どの地域でも食用にされる。アボリジニの一団としばらく野外生活をともにしたことがあるが、そのときのブッシュミート(野生の肉)として、オーストラリア最大のトカゲであるペレンティオオトカゲも食べた。オーストラリアでは原生動植物は厳しく保護されており、白人(およびわれわれのような外国人)が野生動物を採ったりしたら犯罪だが、アボリジニは本来の権利としてそれができる。当然だ。私と加藤晴彦君はアボリジニたちのご相伴にあずかったわけだが、たき火で焼いただけのオオトカゲの肉はムロアジを想起させた(晴彦君は泣きそうに飲み込んだが)。

 このときのペレンティオオトカゲは、後肢に大きな腫瘍ができていた。だからこそ捕まえることができたと思う。健康なオオトカゲは動きが速過ぎる。またこのような病気の個体の除去されるのは生態系へも悪影響がなかろう。この腫瘍はアボリジニが食べる時に取り除いたが、経験で病気を避けたのだろうか、あるいは単に気持ち悪かったのだろうか。

 アフリカのカメルーンでは、ナイルオオトカゲを開きにし、棒で凧のようにしてから燻製にしたものが売られていた。こうした肉とトウガラシを入れて煮込んだスープが普通の食事であった。肉として最も普通だったのは魚肉であったが。

 フィリピンでミズオオトカゲなどのオオトカゲを捕まえるワナを見た。通りかかったトカゲがループに足を入れると、ストッパーが外れ、吊り上げられるというトラップだ。地元民は小枝やツル植物を使ってアッという間に作ってしまう。自然物ばかりなので製作費はタダだし、仕掛けてあってもほとんどわからない。偶然そこに来るのを待つだけだが、数多くかけられるから効率は気にしないようだ。捕まえたオオトカゲはアドボといった料理にされる。

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。