千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2008年02月05日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「辰」を食べる~
竜はおいしく食べられる

 1977年、シベリアに住むジャルコフ家の9歳になる少年が、永久凍土から突き出たマンモスの牙を見つけた。それ自体は珍しくないが、この牙には肉片らしいものが付いていた、との報告に、科学者が反応した。2年後、フランスの極地研究者らが発掘し、ほぼ全身が冷凍保存されているのが判明。3,200km離れたハタンガの町まで空輸され、ヘアドライヤーで解凍された。その後の調査でこの個体は2万380年前のものとわかったが、このような数万年前からのコールドミートが関係者に食べられた例があるのだ。

 マンモスは竜ではない、というかもしれないが、そうでもない。

「竜骨」全身
「竜骨」全身

 竜を原料とする漢薬があり、竜骨・竜角・竜歯等という。その実体につき、平賀源内は1763年に「竜歯、小豆島産其の形、象歯に似たり」と言及している。その後1811年に小原春造が「竜骨一家伝」を書し、竜骨は象の化石であるとした。しかし、竜骨はマンモスを含む古代象に限らず、さまざまな化石を総称している。本物の恐竜の化石が竜骨となって薬として服用されるケースもあるのだ。

 いずれにせよ、化石となった絶滅巨大生物の骨を見て、かつて巨大な動物「竜」がいたと信じたものであろう。

ドラゴンを食う

 竜は英語でdragonだが、実在する動物ではオーストラリア産のアガマ科のトカゲにdragonの名が用いられる。アガマ科は日本にはキノボリトカゲのみがおり、樹上棲と思われやすいが、アフリカとオーストラリアを中心に地上棲の一群がいる。このことも古い時代のオーストラリアとアフリカの地質的な結びつきの証左とされるが、ともあれ、オーストラリアのアガマ科の一群は和名でもドラゴンと呼ばれる(フタスジドラゴンなど)。

 このドラゴンはアボリジニの食料となる。アボリジニはオーストラリアの先住民で、自然物の巧みな利用について教えられることが多い。筆者は植物について教わるとかなり驚くのだが、ドラゴンを食用にするのは、さもありなんと思った。とりわけ、大型で目立ち、普通種であるエリマキトカゲやアゴヒゲトカゲの利用に関しては(これらの種は日本でもよく知られているために、ドラゴン類でありながら○○トカゲの名を持つ)。

最大のドラゴン

コモドオオトカゲ
コモドオオトカゲ

 コモドオオトカゲは正式には英名でKomodo monitorだが、Komodo dragonという別称がある(アガマ科ではないトカゲにdragonを用いるのは妥当ではないが、英名の使用基準はルーズだからまあいいか)。全長3m、体重80kgになる世界最大のトカゲにはdragon(竜)の使用も大きな違和感がないが、いずれにせよ、こういうドラゴンが恐竜にあらざるは、ヘビが恐竜にあらざるが如し。英語でいえば“A dragon is no more a dinosaur than a snake is.”である。入試英語の勉強もしてしまう。

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。