千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2008年02月05日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「辰」を食べる~
竜はおいしく食べられる

辰はワニ

 「タツ」といえば龍、竜のことになる。竜は水を支配し、魔力と結びつく。強大ではあるが害悪ではないのが、東アジアから南アジアにかけての竜で、ヨーロッパ世界の竜は翼があり、神に敵対する罪悪とみなされる。

 火の無いところに煙は立たず、どんな実在動物によって竜のイメージは形成されたのか。辰と巳は互換性があり、蛇も水神のことが多いから、蛇が竜の正体の一部を成すことは間違いない。その食にまつわる部分は「巳を食べる」項に譲る。

 水に棲む爬虫類たるワニが竜の正体を成すのも想像に難くない。というより、竜はかなりワニである、竜の顎の下にある逆鱗(げきりん)に触れると必ず殺されるというが、ワニは顎の下に下顎腺という臭腺があり、興奮すると反転して外に突出し、よくわかるようになる。こうした特徴も竜の正体がワニであることを示す。ワニは恐竜や飛行性爬虫類、鳥と系統的に同じグループであり、トカゲとは別系統であることが最近の進化学で判明しているが、西欧の竜も、ワニの一族であることがますます明らかである。

 十二支暦も併用していたトルコ民族は、辰年も当然使用していた。カシュガルル=マフムードによる「トルコ語集成」には、辰にワニの訳語を与えている。

 辰がワニだとすれば、それを食べるのは当然の話で、世界各地でワニは食用とする。入手できる地ではゲテモノでも何でもないので、私もあちこちで食した。

BBQ用イリエワニ

 喩えていえば鶏に近いが、伊勢エビの食味も少しある。北アメリカ東南部のアメリカアリゲーターや、南米のアマゾンを中心とする河川域のカイマンといったアリゲーター科のワニもよく食べられ、そのことによって個体数が減少した面もある。旧世界のほうにより多く分布するクロコダイル科のワニは、皮革用に殺されたのが激減の大きな要因ではあろうが、やはりよく食用にされている。オーストラリアのオージー料理の一角を成すのはクロコダイル、特にイリエワニの肉料理である。

 ともあれ、どんなワニでも食べられる。ワニが人を食うより、人がワニを食うほうが、圧倒的に多い。

絶滅した竜を食べる

 竜として普通に想起されるのは恐竜だが、その肉を食べることはできない。人類と同時代的なことなく絶滅したからである。

 絶滅していても時代を共有しているのなら食用となる。マンモスがその例で、氷河時代に人類は食用としてマンモスを狩り、絶滅に追いこんだ。現代にもマンモス食の例はある。

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。