千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2008年01月18日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「酉」を食べる~
ニワトリは、時計とギャンブル

生卵はゲテモノ

 鶏卵の利用は食用にとどまらないにせよ、食品として鶏は卵も多く消費されている。その最もシンプルで美味な食べ方――生卵は、日本人にこそ馴染みだが、国際的には異端である。

 海外の滞在から戻ったとき、最も食べたくなっているのは、私の場合、生卵である。熱い味噌汁に白飯、醤油。日本らしさの全て。寿司も日本的だが、昨今は海外でもポピュラーである。長期の南米取材のとき、地元スタッフの作る豆料理ばかりに飽き、日本人たちでインスタントラーメンに生卵を落として食べているのを、目撃した南米人たちは“huevos crudos?!”(生卵だ)と目を丸くして驚いていた。

糞なんか食えるか

 東京オリンピック時、アジア村の選手団から、朝食に強いクレームがついた。こんなものは食物ではない、馬鹿にしているのか、というのだ。生卵だ。

 国際的な常識としては生卵が忌避されている理由は、サルモネラ等による食中毒を起こしやすい点だろう。日本では、生産・流通段階から、生食を想定して衛生管理しているから安全だが、他国では危険である。トリの卵は原理的に汚れる。トリには肛門がないからだ。尿道口や繁殖のための開口部とは別に、糞の排泄専用の穴がある場合にそれを肛門という。トリはそれが区別されず、全て同じ総排泄口という穴から出る。卵は排泄物と同じ所から出るわけで、便で汚染されるのは当然である。

 東京オリンピック時に最も激烈に抗議したのは、朝青龍の国、モンゴルだった。お尻から生むので、鶏卵を「鶏の糞みたいなもの」とみなすのである。そもそも、つい最近の都市生活者はともかくとして、モンゴル人に鶏は無関係である。

 鶏の飼育には何らかの穀物が必要であり、定住農耕民族にしか扱えない。誇り高き遊牧放浪の民族に随伴する動物ではないのだ。馬の間を鶏が共に移動しているなんてコッケイな図は想像できないであろう。

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。