千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2008年01月18日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「酉」を食べる~
ニワトリは、時計とギャンブル

鶏はカケ

 ヤケイはまずその鳴声によって認識されただろうが、野生でもよく観察される行動がある。飼育すればさらに目につくし、飼育そのことにも関係する習性が、「闘争」である。

 雄鶏(オンドリ)は雌をひきい、そのテリトリーを守る。そういう強い雄鶏が、力強いトキをつくる(夜明けを知らせる)わけだが、より多くの雌を確保し、勢力を拡げるための闘争行動は激しい。かなり見応えのするものでもあり、どちらかが勝つまでは見守り続けさせる魅力もある。

 飼育がなされるとすぐにそれは「闘鶏」というゲームになっていった。東南アジアに始まった鶏の家畜化、セキショクヤケイがニワトリとなって、世界中に拡まった原動力は闘鶏であるとも考えられる。宗教儀式として始まったであろうが、ギャンブルの側面も広く受け容れられたらしい。

 B.C.2300-1800年に栄えたインダス文明のモヘンジョ・ダロの都市遺跡から、闘鶏の絵が刻まれた印章が出土している。中国では「唐書」の五行志に「玄宗闘鶏ヲ好ム」とあるので、秦の時代には闘鶏があったのだろう。日本では古く闘鶏をトリアワセ(鶏合)といい、宮中では室町時代になると、3月3日の節供の行事として鶏合が行われるようになった。たぶん発祥の地である東南アジアでは、妻子さえ手離すほど闘鶏に熱中する者が多かった。

 昭和の頃まで各地で見かけられた闘鶏に使われていた軍鶏(シャモ)の語源は、シャム(タイ)である。ヨーロッパ諸国でも非常に盛んとなり、イギリスでは16、17世紀のヘンリー8世とチャールズ2世は、闘鶏に熱中し、細かい規則を定めた。大変よくできたルールであったため、18世紀に近代ボクシングが興ったとき、そのまま借用されたほどである。ボクシングの体重区分として知られる用語、ヘビー・ライト・バンタム等は闘鶏用語である。バンタムは鶏の品種名である。

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。