2008年01月18日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)
~「酉」を食べる~
ニワトリは、時計とギャンブル
やがてそれが習慣化してくれば、鶏の刻の声が聞こえぬと、不安になる。魔や精霊の支配する闇から逃れられぬのではないか。そういうことが起こらないよう、安心して暮らすにはどうしたらよいだろうか。鶏を飼うのである。闇と昼との境目を告げる霊鳥を、常に傍らに置けばよいのだ。
当然、鶏は太陽信仰と結びついている。
中国では農暦2月1日の太陽星君(日神)の縁日に、太陽◯(タイヤンカオ)と呼ぶ干菓子に粉製の鶏形をつけて備える習俗があった。
日本では「古事記」にそれを読みとれる。天照大御神が天岩屋戸に隠れたとき、「常世の長鳴鳥」を集めて鳴かせた。実際の事件としては、日食のときに鶏が鳴いた、ということに由来するのだろうが、闇の妖(わざわい)が続くのを、鶏の刻の声によって明けさせたのである。
江戸時代の儒学者、新井白名は著書「東雅」で鶏について注を付けている。それに『日神天磐屋戸をさしこもり給ひし時、思兼神、常世鳴鳥を集めて鳴かしめられしと見へしは、鶏をいふと云ひ伝へしなり。さらばニハトリとは、斎場(イツキノニワ)の鳥なるを云ひしなるべし』とある。「庭の鳥」だからニワトリであるという明確な語源論だ。
古語ではニワトリは鳴き声が「カケロ」とされていて、その由来の「カケ」が名称であった。枕詞としての「ニワツトリ」が「ニワトリ」となったのだろう。別名として「明告鳥」「時告鳥」などがあるのも、その役割を明瞭に示している。
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千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)
1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。
動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。