千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2007年12月26日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「丑」を食べる~
ウシはコーカソイドと共に

 牛(のみならず家畜というもの)を飼っていなくて免疫のなかったアメロイド(北米でインディアン、中南米でインディオとよばれたりする新世界の先住民)たちは、大人でも簡単に死んでいった。死亡率はヨーロッパ人よりもはるかに高く、5~10割に達した。先住民が消滅ないし、極端に減少した土地を乗っ取り、支配するのはた易い。かくして白人のグローバリゼーションが進んでいった。

 生物の自然分散を超えた「外来」の猛威はすさまじい。現在、天然痘ウイルスは自然界には存在しない。人間が撲滅させたのだが、本来いなかった存在を人間が作り上げたことを思い起こせば、これでやっと元に戻ったわけである。核兵器なんかもこうでありたいものである。

殺生戒への道

 乾燥地帯の作物である麦は、動物性蛋白と組合せなければ栄養欠乏を生じる。家畜の利用は必然であったが、乳の利用の開始は文明に大きな変化をもたらした。家畜を肉対象としていれば「殺し」は必然だったが、乳利用により、「殺さない」動物性蛋白入手の道が拓かれた。

 殺さずに食が確保されるようになり、「殺-罪-不浄」という感覚と、「不殺-無罪-浄」とが対立的にとらえられた。乳利用地域は、肉食地域の食習慣を異にする集団を、差別化していくことになる。殺しにつながる肉食を否定する食物の倫理は、ヒンドゥーのアヒンサになり、仏教の殺生戒につながっていく。これらの宗教観の発生地が、コーカソイドであるインド人の地にあることに注目されたい。西アジアでもヘブライの旧約聖書で肉食はマイナスに評価されているが、やはり乳利用地域である。

 現代でもベジタリアン(菜食主義者)たちの思想の根源にこういう感覚が流れていることは否めないであろう。元来は肉を食べる人たちであるのに、わざわざベジタリアンになっていくのは、なっていける体質があったからこそである。実際、ベジタリアンには、乳製品は制限しないという人も多い。

 インドにおいてウシが神聖視されている背景には、アヒンサの普遍化がある。ウシは草の地上部しか食べず、根まで食べて、飼料植物を「殺す」ことをしない。殺生戒を守る動物であることも、神聖性を増しているのだろう。厳格なベジタリアンは、植物の根の摂取も避けるのである。ウシにみならって。

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。