2007年12月26日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)
~「丑」を食べる~
ウシはコーカソイドと共に
動物性蛋白質は、「肉」である限り、コストの関係で徐々に入手がわずかになっていく(肉を生産するにはその分多くの餌用作物を生産せねばならないため)。肉用に殺せばその時点で家畜は生産を止めるし、野生からの入手も困難になっている。
ところが、コーカソイド(インド・ヨーロッパを中心に分布する人種)は、成人になっても乳を飲め、消化できるという特異体質を獲得する。「成人β-ガラクトシダーゼ持続」という。この体質のおかげで、西北ユーラシアのヒトの集団は、乳幼児から成人に至る全ての構成員の主要な食料を新たに獲得した。搾乳という新技術も、飲用に先んじて開発されていたし、ウシにも多量に長期間乳を分泌するものが現れた。
かくしてコーカソイドとウシの蜜月が始まり続く。ウシ等の家畜は人と生活空間を共有する。ヨーロッパの習慣では、室内でも靴をはいているが、これは有蹄類の排泄物のためではなかったろうか。ベッドは日本のフトンに比べると柔らかいが、これは原型がワラの寝床であることによるのではなかろうか。
免疫の光と影
人畜共通感染症というのがある。他の動物種と人に共通する病気だ。接する機会が多く長いほど広がる。また、異種間を往来しているうちに新種の病気を生む。コーカソイドは多種類の家畜を飼い、水や空気を共有しているうちに多くの病気を共有し、それらへの免疫も獲得していった。痘瘡のウイルスは人とウシの間に牛痘から天然痘を生じさせた。
ヨーロッパ風土病として出現した天然痘は感染力が強く死亡率が高い。ヨーロッパでも18世紀の初めには死因の1割以上を占めた。都市や港湾地帯に住んでいる者はほとんどかかり、死ぬのは主に子供で、生き残った大人は免疫を備えた。
ヨーロッパ人は新世界へ進出し、そこを植民地化していったが、先住民を殺し、白人主義を前進させたのは、銃よりも天然痘のような病気であったろう。銃はやがて先住民から白人に向けられるようにもなったが、天然痘は先住民の味方になることがない。
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第6回 | ~「丑」を食べる~ ウシはコーカソイドと共に (2007年12月26日) |
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第4回 | ~「巳」を食べる~ 天高く蛇肥ゆる秋 (2007年11月28日) |
第3回 | ~「子」を食べる~ ネズミ食うべし (2007年11月14日) |
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千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)
1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。
動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。