千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌

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2007年12月26日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

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~「丑」を食べる~
ウシはコーカソイドと共に

原牛からウシへ

 家畜牛の先祖は「原牛」という。ふつうは「オーロックス」と呼ばれる種で、更新世末期(約10万年前)以降に隆盛を極め、ユーラシアに広く分布していた(北米にはいない)。人類によって狩猟されたため、各地で絶滅していった。例えば、イギリスでは青銅器時代までに絶滅していた。家畜牛つまりウシよりずっと大きく(体重で800~1000kg。ウシはふつう300~800kg)、雄は長大な角を持つ。この扱いにくい動物を、何故、またどのようにして、家畜化していったのだろうか。

 もともと肉のために狩っていたのだから、食料確保は意図されていただろうが、飼養のためのコストを考えると、推進の原動力とは考えにくい。日常的に消費されるものでない故に、祭事に捧げ物にされたであろう。力強い獣なので、畏敬の念も抱かれただろう。特に、人を殺すこともある角はそのシンボルだった。先史時代の人類が牛を神聖視していたことは遺跡等で明らかである。犠牲と言う漢字(牛偏がつく)そのものでわかるように、各地で牛は、特にその角が神に捧げられてきた。古代ローマの書にも牛が犠牲に供されることが記されている。犠牲としての捧げ物あるいは物々交換用として、牛は飼育開始されたのであろう。

 牛は牛飲馬食の語が示すように、水を多量に飲む。人間の居住地が水飲み場にあれば、牛もそこに居つくようになろう。また、塩を好むから、それを与えることによって人類の定住地に慣れさせ飼養していったのであろう。飼育下で、繁殖を管理し、人類は牛を小型化させていき、扱いやすいウシにした。

コーカソイドとの共生

インド亜大陸のウシ「ゼブー」
インド亜大陸のウシ「ゼブー」

 人が森林を伐採していくと、狩猟には頼れなくなる。獲物が住めなくなるからだ。反面、肉食獣もいなくなって家畜が襲われることもなくなる。かくして家畜と麦等の作物をセットにした農業体系がヨーロッパを中心に拡がっていく。

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執筆者プロフィル

写真:千石正一

千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)

1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。

この連載について

動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。