2007年12月12日 千石正一(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)
~「未」を食べる~
大いなる羊は美しいが
大人はミルクを飲めない
これには民族の遺伝的体質が関与している。肉は食べて体調をくずす、というものではないが、飲乳後に腹部の不快感を覚えたことはないだろうか。牛乳を飲み過ぎて下痢をしたことはないだろうか。実はこれは「正常」な反応である。
乳はヒトを含む哺乳類の乳児にとっては唯一の栄養源だが、成体には無用であり、その摂取が制限されるほうがよい。乳に含まれるラクトース(乳糖)の消化酵素(β-ガラクトシダーゼ)は、乳児期を過ぎるとなくなるのである。β-ガラクトシダーゼによって空腸で分解されなくなったラクトースは小腸や大腸で菌によって分解され、有毒な蟻酸を含む有機酸を生じる。これらが腹痛や腹鳴の要因になる。かくて、成人はラクトース不耐が通常であり、世界の90%の成人はミルクを生理的に受けつけない。もちろん、発酵乳は大丈夫である。
さて、コーカソイドはヨーロッパ人もインド人も、ほとんどβ-ガラクトシダーゼ持続である。つまり生乳をいくらでも飲める。これに対し、アメロイド(南北アメリカ先住民)やオーストラロイド(サフルランド先住民)は全く飲めない。ネグロイド(アフリカ人)やモンゴロイド(アジア人)もかなりのラクトース不耐である。
ヒツジなどの家畜の起源地である西アジアで、β-ガラクトシダーゼ持続の遺伝的変異が生じた。食料獲得の厳しい環境で生活する遊牧民では持続の人は有利であり、生存率が高く、子孫を多く残した。ラクトース不耐の人々は淘汰された。またこの遺伝形質は優性でもある。このようにして、放牧と共にβ-ガラクトシダーゼ持続の人々は拡がっていった。
ここで凄いのはモンゴル人たちで、ラクトース不耐なのに、畜乳をかなり利用する。しかし彼らは決して生乳を飲まない。貴重な燃料を使ってまで茶をわかし、ミルクティーにして温めて飲むのである。もちろん発酵乳製品もよく利用している。ラクトース不耐を文化によって克服しているのだ。
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千石正一
(動物学者/財団法人自然環境研究センター 研究主幹)
1949年生まれ。動物の世界を研究・紹介することに尽力し、自然環境保全の大切さを訴える。TBS系の人気番組『どうぶつ奇想天外!』の千石先生としておなじみ。同番組の総合監修を務める。また、図鑑や学術論文などの幅広い執筆活動のかたわら、講演会やイベントの講師なども多数務めている。著書多数。
動物学者・千石正一が、食を通じた人類と動物の歴史について、自身の世界各地での実体験を交えながら生態学的・動物学的観点で分析。干支に絡めた12の動物を紹介する。